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シャチ


「シャチ、チョコ幾つ貰えた?」

帰り道、お隣さん兼幼馴染のシャチの持つ紙袋に視線を遣って尋ねれば、26との返事が。去年は確か19だったか。

「記録更新したじゃん、おめでとさん。」
「おー……でもペンギンは今年45個でロー先輩は三桁超えたってよ。」
「あの人らは次元が違うんだよ。あんたも他の男と比べてちゃんとモテてるから大丈夫。」
「俺……バレンタインの日はあいつらの隣に並びたくねぇ……引き立て役とか思われてんだろうな……これだってみんな義理だしよ……」

いつになくうぜぇ。
まあ確かに、今日一日でチョコ三桁とか貰いすぎなんだけど。ペンギンも四捨五入すれば50個だし。自分を必要以上に卑下するシャチがいつも以上に引け目を感じても仕方ないのかもしれない。
そんな幼馴染を持ち上げて気を良くさせてやるのが私の役目なわけだけど。

「シャチってさー、服のセンス良いよね。」
「……は?」
「特別整ってるわけじゃないけど見てて不快になるような顔してるわけでもないし。」
「………」
「特別頭が良いとか運動ができるとかいうわけじゃないけど話してて楽しい。退屈させない話し方だよね。」
「………」
「人を褒めるのも上手い。気分良くさせてくれるよね。」

隣を見ると、シャチが居なかった。一人で話してたのかと慌てて周りを見ると、少し離れたところにシャチが居た。一人でくっちゃべる私を見て楽しんでやがったなと怒り心頭に発しながらずかずかと大股で近付けば、お前さあ、と感情を押し殺したようなどこか嬉しさの混じった声。思わず足を止めた。

「俺のこと好きなの?」
「えっ」

いつもどおり褒めただけじゃん!今年はいつもよりちょっと高いチョコ買っただけじゃん!なんで!?
チョコの入った紙袋をシャチに投げつけて、もうすぐそこまで見えていた自宅に駆け込んだ。
そうだよ好きだよ悪いか!



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