轟焦凍に抱擁をねだる
私より20センチばかし大きい彼の隣に私が立つと、うまくハグができないのだ。突然何をほざくのかと思うだろうがまあ聞いてくれ。
私が背伸びをすればなんとかちょうどよくなるんだろうが、それだと5分10分ハグしてもらうときに私がつらい。かと言って彼に腰を屈めさせるのはそれはハグを要求している者の態度ではないと思う。
ので、私が机に腰掛けて、轟くんは、なんにも言わず私をつつむように抱きしめる。
上から覆いかぶさるように私を抱きしめてくれる轟くんの腰に腕をまわす。
私がどれだけぎゅうぎゅうと強く轟くんを締付けても、轟くんは苦しいだとか痛いだとか一言も言わず、ただ黙って私に体を貸してくれる。
▽
「恋人のような抱擁を、してくれませんか」
突然何を言い出すのかと思った。俺たちはただのクラスメイトで、恋人でもなんでもない。他の奴と違うのは、俺がみょうじに好意を抱いているということだけか。
「どうしたんだ、突然」
「うーん…」
目を伏せて抱擁を求める理由をつくろうとみょうじは唸った。
人がいなくなるのを待っていたようで、今この教室には俺とみょうじしかいない。俺は日直の仕事があって残っていた。
「人の…ぬくもりを…感じたくなったというか…」
「いいぞ」
完全なる下心だった。アホ面でマジでかと驚くみょうじに、少し待ってくれと言って、先にかばんに荷物を仕舞った。
それから椅子を引いてスペースをつくり、少し脚を開いて腿を叩く。来いよ、と腕を広げるとみょうじはあからさまに慌てた。
「えっっでも重いし!」
「いいから」
「そっえっ、でもっえっ!?」
「人のぬくもりを感じたいんだろ?」
抱擁をしたい彼女の理由を言えば、顔を赤くして失礼しますと、俺の腿を跨いでそっと座った。言うほど重くないぞと言おうとして、彼女の脚が震えていることに気付く。脇の下に腕を通して背中と腰を引き寄せると、みょうじはううっだかぐうっだかよく分からない呻き声を出した。
呻きはするものの抵抗はしないので、これでいいのかとみょうじの肩に顎を置くと、ヒッと短く息を吸う音が聞こえた。緊張からか恐怖からか。抵抗しないのをいいことに、少し、腕の力を強めれば、みょうじが額を預ける俺の肩口が、少し濡れた気がした。
2017/08/07~2017/08/31
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