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水底に沈むルビー

(個性持ち)

浴槽のふちに座らせたクラスメイトの腰に跨って、水を張った浴槽に沈めている。首に手をかけ抵抗しないのをいいことに、クラスメイトの上体を反らさせて頭を水につけさせている。ごぼごぼと空気が泡になって逃げる。
虚ろな双眸がぼうっと私を見ているがそれは見ているわけではなくただ目を開けているだけにすぎず。暗い赤に私は映らない。その目に私は映りはすれど彼は私を認識しない、絶対に。
いつもは痛そうにしている金の髪が、私がつくった水の動きに揺られる。

薄い手袋越しにしか触れられないのは些か寂しいものがある。つくりものはやはり温度がない。水に冷やされているというのもあるのだろう。
もう爆豪の口から空気の泡は逃げない。体はぐっと重い。
首に押し付けていた手から、体を支えていた腕から力を抜いて前屈みになるようにする。浴槽のへりが邪魔だと思うのは何度目だろう、数え切れないほどこの行為を繰り返したしそのたび思った。
水に顔をつけて、目を開けたまま薄く開かれた唇に自分のものを重ねた。爆豪は無反応だ。
すぐに息が苦しくなって、水から顔を上げた。爆豪は変わらず動かない。そういえばよく少女漫画などで表現される、舌をいれるというのがよくわからなくてやってみようと思った。
後頭部に手をあてがって持ち上げる。水を吸って重く肌に張り付く服を掴んで上体を起こさせる。普段ああも横暴なクラスメイトがこうも私のいいなりになっているというのは実に気分がいい。支配欲が満たされる。
一度私の手を離れたこの贋作は、私が口で命令しても願っても、この爆豪は決して動きはしない。
唇と唇とを重ねて舌をいれてみる。必死に舌を動かして爆豪の冷たい舌を絡めようとする。…すぐに疲れてやめた、なにがいいんだかやっぱりよくわからなかった。

風呂場に持ち込んでいたスマホの画面を見て時間を確かめる。
個性を使って二時間、更に具現化させてから二時間。その短い時間でしか私の個性は役に立たない。
もうすぐ贋作の爆豪をつくりだして二時間が経つ、時間がくれば消える。
素手で触れたものを効果が消えるまでの二時間の間に任意で具現化させられるこの個性を、疎ましく思っていたときもあった。個性が不用意に発動しないためにいつも薄い手袋をしていたせいでいじめにあうこともあった。それでもこの個性のおかげでいつもは話しかけられないクラスメイトにも、容易に触れることができる。触れて話しかけて今日みたいに殺せる。
殺人願望があるわけじゃない。ただそうしたら爆豪はどんな反応を見せるのか気になった。もっともこれは、なにも反応など示さないが。
親が帰ってくる前に、急いで濡れた服を洗濯機に突っ込んで部屋着に着替えた。


翌日、いつもの制服を着て手袋をはめて学校に向かう。教室に入れば爆豪はいつものように取り巻きを従えて静かに机に座っていた。たまに短く相槌を返すくらいだ。
贋作ではない爆豪は決して私を視認しない。
私は、今日はどうやって爆豪に触れようかと考えていた。



タイトル「腹を空かせた夢喰い
石言葉:色



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