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真夜中のもっと暗いところ

どこに行くの、ってそんな声に振り返る。
地面に引かれた白線を挟んだそちら側にデクくんがいる。ラインパウダーなんだから、足ですれば消えるのに、デクくんはそれをしない。安全な白線の向こう側から私を呼ぶんだ。
ずるい。
「ここは眩しすぎるから、もっと暗いところへ」
もう少し奥のほうまで歩けば、きっと目に痛い日の光が届かない場所があるから。


オールマイト、オールマイト、オールマイト。皆が皆、神か何かを崇めるように讃えるように崇拝しているかの如くそればかりを口にする。オールマイト、オールマイト。ああ、鬱陶しい気持ち悪い。
オールマイトがなんだ、ただのヒーローじゃないか。ただのヒーロー、ただの人間。個性と正義感が少し人より強いだけでかいだけの、蓋を開ければただの人間をどうしてそこまで崇拝できるの。
反吐が出る。


二度目のヒーロー基礎学は敷地内のUSJでレスキュー訓練だった。デクくん、蛙吹さん、峰田くんの三人と水難ゾーンに飛ばされた。
一人で戦う相澤先生が心配だからというデクくんの言葉に、広場近くまでゆっくり近付く。脳が剥き出しの大柄なものが、相澤先生にまたがっている。相澤先生は動かない。
べらべらと喋り倒していた、顔に手をつけた男がぐるりとこちらを向いて私に手を伸ばした。触れられる。……が、何も起こらない。相澤先生が男を見ていたようだった。私は男から目を離せないでいる。
あれだけ目立って強いんだ、そりゃあアンチだっているだろう。けど、ここまで声を大きくして不満を叫ぶ人は見たことがなかった。見たことがないだけで本当なら私のすぐ近くにもいたのかもしれないけど。


爆豪くんみたいに勝利に執着しているわけてはない。デクくんみたいに命を賭してまで誰かを助けたいわけじゃない。オールマイトのように絶対的な力で相手をねじ伏せられる個性ではない。
ヒーロー科になんとか入ることはできたけど私はなんにも持ってない。
「お前、ヒーロー科のやつだろ」
ヒーローには憧れているけどヴィランを強く憎むわけでもない。ヒーロー向きの個性ではないかもしれないけどヴィラン向きの個性というわけでもない。
「お前はこっち側にいるほうが、ずっと似合うんじゃねえの」
長いものには巻かれてろ。流れに身を任せていろ。いちいち他人に逆らっていちゃあ、社会ではやっていけないぞ。って、お父さんが。
「はい、よろしくお願いします」


どこに行くの、ってそんな声には振り返らない。振り返れない。もう戻れないところまで来てしまった。
「───みょうじさん!!」
爆豪くんはもうこちらの手中にある。黒霧のワープゲートを通って遠く離れたアジトに行けば全部うまくいくはずなんだ。
「ばいばいデクくん」
ワープゲートをくぐる直前に見たのはデクくんの泣きそうな顔。
幼馴染を奪われてそんなに悔しいか。苦しいか。だったら自分の手で奪い返しにおいでよ。
ああでも、デクくんにそんな顔をさせているのは私なのか。なんて。思い上がりも甚だしい。
「ごめんね」


(大通りにいる。ここは少し眩しいな。サングラスをかけても、光は目に直接入ってくる。目が痛い。
 薄暗い路地を見つけた。入ってみたら、私を直接攻撃するあの光は届かなかった。それでも大通りから差す光は、私が立つ場所まで届いている。まだ、眩しい。
 クラスメイトがかけてくる言葉を無視して腕を引く手を振り払ってどんどん奥へ、奥へ。そうしていつか日の光すらも届かない最奥に辿り着いていて。ああ、もう戻れないなって。戻り道を忘れてしまった。)


真夜中のもっと暗いところ

title by. サンタナインの街角で



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