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勇気をなくした16歳

(みどちゃ前提)(捏造)







好きな人がいる。誰より優しくて正義感に溢れて、無個性だけど無個性なりに努力してヒーローになるという夢を諦めないで、爆豪に貶されても脅されても雄英を志望して本当に入学してしまった。
誰より彼を好きな自信があるし、誰より彼を理解できる自信も、彼のすべてを受け入れて彼の言葉を全面的に肯定できる自信もあった。
それでも私が彼に好きだと言えなかったのは、15の私に勇気がなかったからだ。誰より理解できる自信があるなどとのたまいながらも、彼が私を拒絶するのではという妄想に駆られ、結局のところ彼を信用しきれていないのだ。

「デクくんは好きな人いるの」
中三の秋にそんなことを聞いた。大きな目をまんまるに開いて、即座に顔を赤らめて動揺しながら「そんなのいないよ」と。
醜く心の狭い私はそのことにひどく安心して、ああよかったと思いながら、そうなんだと微笑むのだ。
よかった、デクくんが誰も好きでいないでくれて。よかった、私がその眼中にいなくって。でもデクくんは優しいから、私が好きって言ったらきっとおっけーしてくれるんだろうな。それとも困った顔して誠意を見せて、ごめんなさいって断るんだろうか。よかった、よかった。安心と嫉妬と罪悪感のいろんなよかったが私の胸を埋めていく。よかった、よかった。


急に個性が発現して、だからまだうまくコントロールが効かなくて、だから、それで。
入試が終わって帰ってきて、そんな言い訳をつらつらと並べたデクくんはどこかやましいことがあるような顔をしていた。その顔を見たくなくってきっと私に隠し事しているような雰囲気をかもし出すデクくんが見たくなくって嫌で嫌でしょうがなくって。そうなの、大丈夫だよよかったねって答えた私はもしかしたら、突き放すような言葉になっていたかもしれない。それだけを、申し訳なく思う。


雄英に入学してからのデクくんの成長は目まぐるしかった。
4月には雄英の敷地内でヴィランに襲われ、5月には雄英体育祭で個性を使わず第三種目まで上り詰め、結果はまずまずであるもののそれでも二回戦まで進出した。あれは相手の子の個性が強烈だったせいだろう。きっと、扱いを誤れば体がだめになってしまうような個性なのだろうと思う。指を弾いただけでひどく腫れ上がっていたから。
6月のインターンではかのヒーロー殺しと交戦し、捕縛したらしい。夕方のニュースでは捕まえたのはエンデヴァーであると報道されていたけれど、無事を問う内容のメールを送ったところ、口止めをしながらも真相を教えてくれた。ヒーローに体を斬られたけれど、大事には至らなかったらしい。体育祭から二週間くらいしか経っていないのに大きな進歩だなあと、ぼんやりと思っていた。


ぼう、と考え事をしながら、人を待っていた。
高校は離れたけれどデクくんとはまめに連絡をとっていた。途中から寮制になってしまってからは、私が頻繁にメールを送っていたから、もしかしたら鬱陶しがられていたかもしれない。それでも会いたいと伝えたら、どうにか時間をつくるからと、言ってくれた。
好きだとたったひとこと言う勇気が、会う約束をつくれば芽生えると思っていたけれど実際そんなことはなかった。時間が経つにつれ、会いたくないな、全部私の妄想だったならとネガティヴな考えばかりが浮かんでくる。
「ごめん、待たせて!」
去年はほぼ毎日聞いていた声。久々に聞いた気がして、うつむけていた顔をあげる。久方ぶりに会うデクくんは、去年より些かたくましくなったようだった。
「ひさしぶり、みょうじさん」
「う、ん、ひさしぶり」
本人を前にしたら、さっきまで考えていたことなんて全部すっ飛んでしまって、ああ何を言いたかったんだっけ、せっかく来てくれたのに。…来てくれてよかった、すっぽかされるんじゃないかとビクビクしていた。
「……元気そうでよかった…」
言えたのはそれだけだった。
それから少し話をして、門限があるからとデクくんとは別れた。送ると言ってくれたけれど、門限があるならと私が断った。
会えてよかった、元気そうでよかった。メールでやりとりをするから、生きているのはわかっているけれど、それでも実際に顔を見ることができないというのは本当に不安なものだ。

「デクくんは、好きな人いるの」
去年にも聞いたことを、去年とは違う時期違う場所で聞くのは、少し不思議な気分だった。デクくんは去年と同じように少し目を見開いて、それから頬を赤くして、けれど恥ずかしそうにうつむいてから、肯定した。
私はそれに、そうなんだとしか返せなかった。


好きな人がいた。
誰より優しく誰より正義感に溢れて、無個性なりにヒーローになる術を探し模索してノートにまとめるまでするすごい人。中三の春にはヒーローすらも躊躇したヘドロのヴィランに立ち向かい、高一の梅雨の時期にはかのヒーロー殺しをも捕まえた。
誰もが絶望し諦めるような局面において希望を見出し活路を開くデクくんの後ろ姿に憧れていた。

誰より好きな自信があったし、誰よりデクくんを理解できる自信もあった。た、た、すべては過去の出来事だ。
16の私はここで死ぬ。16の私がなくしてしまった勇気を、17の自分が見つけてくれると信じている。



勇気をなくした16歳


title by. サンタナインの街角で



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