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無題

 ヒーロー科のやつらが下駄箱でたむろしてんのがクソ邪魔だなって思った。
 それからワイワイうるさい声の中に聞き知った声があったから、合ってたらいいなと思ってそいつの名字のほうを口にした。
 そいつ一人だけが振り返るんだと思ってたから、その場の全員が振り返ったとき正直引いた。お前ら全員ばくごーかよ、と。

「爆豪の彼女?」
「ちげぇ」
「爆豪に彼女!?」
「ちげーっつってんだろ」

 上から順に赤髪、爆豪、金髪、爆豪である。心底ウゼーって顔した爆豪がなんの用だと言いたげにこちらに視線を投げた。

「お母さんが、今日明日っていないから爆豪の家に世話になれって」
「もうガキでもねぇのに何言ってんだお前んとこの母親は」

 心底嫌そうに爆豪が言った。ごもっとも、まったくそのとおりだと私も思う。
 私と爆豪のやり取りを聞いていた赤髪と金髪が、やっぱり彼女じゃねぇかだの爆豪のくせにだの羨ましいだの、爆豪をなじる。私の登場によりイラついていた爆豪がそれにより苛立ちを増幅させて爆発した。

「うっっっせーーぞてめぇらブッ殺されてぇのか!!!!」
「爆豪がキレた!」
「逃げろ!」

 わっと二人が、蜘蛛の子を散らすように逃げ帰る。
 ヒーロー科はもっと、意識の高い人らが集まる科なんだと思っていたが、そうでないのもいるらしい。あまり都合がよすぎる夢は見ないほうがいいようだった。
「で?」睨むように私を見て爆豪が言った。それに対し私は、うん、と答える。

「ンっとに話通じねぇなぁテメェは!」
「通じてるじゃん」
「アァ!?」と、ぼん。

 幼い頃からそれをされ続けてきた私はもう臆することなどせず、黙ってそれを受け流す。それにすら爆豪はイラ立つようだった。
 私が何をしてもイラ立つなら、私はもう何もできないぞ。
 クソが、と悪態をつきながら足音荒くさっさと靴を履き換えて行ってしまいそうな爆豪に、待ってよと声をかけて私も靴を履き換えに、自分の靴棚まで走る。
 ヒーロー科と普通科では靴棚の場所が違うせいで、些か距離がある。先に行ってしまったであろう爆豪に追いつけるだろうかと心配しながら自動玄関を飛び出すと、爆豪は柱に背を預けて私を待っていたようだった。

「待ってたの」
「待てっつったのはテメェだろが」

 本当に待っているとは思わなかった、と本心を口にすると、またも凄まれる。今度は爆破はしなかった。

「ねえ、コンビニ寄ってよ、光己さんに手土産買おう」
「いらねぇよ、ンなもん」
「いるよ、何言ってんの。あと、出久も呼ん、」
「…っんであいつを呼ぶんだよ!呼ぶな!!」

 がぁ、と吼えるように怒鳴るものだから電線にとまっていたカラスやらスズメやらが逃げ出した。
 通行人に見られるからやめてほしい。
 私が雄英に来たことでもイラ立ってるし、出久のことでもイラ立つし。私が何かを言ってこの幼馴染が怒らなかったことなんて、本当、ないと思う。面倒だな。面倒くさい。



 寄らないってごねたコンビニに一緒に着いてきたし、食わせないって嫌がったのに家にあげてくれた。出久のことは呼ばなかったけど。

「爆豪なんで私のやることなすこと、全部に怒るの?」
「お前が俺だけ名字で呼ぶからだよバカが」
「なーんだやきもちか」
「はあ!?ちっげぇよカス!」
「私が道ばたの石ころのくせに、ひっついて回るからうざがってんだと思ってた」

 爆豪の部屋に敷かれた布団に横になって、長いこと思ってたことを口に出した。
 爆豪は苦虫を噛み潰したような顔をして、ンなわけねぇだろと苦しそうに言った。

「なんだ、よかった」
「よかねぇよ、何が言いてぇ」
「嫌われてたんだったら、やだなあと思って」

 隠す気なんかさらさらないような舌打ちをひとつかまして、こっちに背を向けるようにしてベッドに寝転がってしまった。

「クソ、うぜぇな…もう電気消せ」
「あーはいはい」



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