きみへ続く四丁目の曲がり角
ダサすぎない部屋着おっけー、短すぎないパンツおっけー。
万が一親が起きたときの言い訳のための財布とスマホを持って、ピンクのクロックスをつっかける。
なるだけ音が鳴らないよう静かにドアを開けて、僅かな隙間に体を滑り込ませる。家の鍵は財布に入っているので、そのままゆっくりドアを閉めた。
パタパタパタ、みんな寝静まった夜の住宅街に足音が響く。パタパタパタ。ぽつりぽつりと街頭の立ち並ぶ道路を私が駆ける。
このあたりはさして都会でもないので街頭が少ない。夜の住宅街は昼間とは違って本当に静かなので、まるで異界に迷い込んできてしまったような、そんな感覚に陥って、少し、怖い。
けれどそんな恐怖心は、次の角を曲がってしまえばどこへやらと消え去ってしまうのだ。
「バクゴーくん!」
昨夜約束を交わした彼はベンチに座って待っていた。顔を上げてあたしを認めると、眉間のシワが少し薄くなった。
おせぇよと、言葉こそ荒いもののその声音はどこか優しい。ごめんねと軽く謝って、公園内に足を踏み入れて、ベンチに座る彼の隣に腰を下ろす。
「お父さん、なかなか寝てくれなくて」
「んなこったろうと思ったよ」
素直じゃない。肺に溜まった空気を吐ききるように息を吐く爆豪くんは、多分、心配してくれたんだと思う。
二言三言、言葉を交わす。
学校どう? お前も同じ学校だろ。科が違うじゃない。そっちと大して変わんねーよ。
実技授業がある時点で、変わらないわけがないのに。
無駄に心配させないように言ってくれているんだろうけど、怪我をしている彼に度々会ってしまえば、心配するなと言われても心配してしまうというものだ。今日もほら、掌に火傷みたいな。
「あー…明日、お前、来んな」
突然の言葉に動揺した。なんで、と尋ねた声が少し震えた。
「明日から就職体験で、俺いねぇから」
「あ、そ、そうなんだ…」
「…んだよ」
今日遅くなったから、嫌われたかなって。前髪をいじってこちらを射るような赤い目から視線を逸らす。
爆豪くんが、ハンと鼻を鳴らして、バカだなって。
コンビニに寄って、適当に安いアイスを買って、シャクシャクかじる。爆豪くんに手首ごと攫われて、一気に半分くらいかじられた。
あ、ちょっと。うるせぇ溶けるぞ。
甘いの得意じゃないくせに、いつも半分くらい掻っ攫っていく。なんで、って訊いたら、「ただでさえ歩くのおせぇのに食うのもおせぇんだから、すぐ溶けてだめになるだろ」って。
家の前まで送ってもらって、お礼を言うために爆豪くんに向き直ると、爆豪くんはどこか気まずそうに私を見ていた。
何か言いたそうに口を開いては、やっぱやめだと口を閉じる。どうしたんだろうかと、彼の言葉を待っていた。
「つぎ、は、よ」
「うん」
「……昼間に会うか」
驚いて、ぱちくりと瞬き。
爆豪くんはすいっと私から視線を逸らして頭を掻く。
彼の言葉を口の中で反芻して、ああこれは、デートのお誘いではないのかと、ひどく嬉しくなった。
このあたりは街灯が少ないから。最近は
そんな、昼に会う理由を絞り出して私を納得させようとする。そんな、理由なんか作らなくったって、あなたが会おうとひとこと言ってくれくれさえすれば、私はいつでも会いにいくのに。
サンタナインの街角で
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