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無題


「桃ちゃん、彼氏さんと別れたんだって?」
「もう知ってるの? 相変わらずなんでも知ってるねぇ。」

なまえちゃんには敵わないなぁ、と桃ちゃんがスマホで口元を隠して苦笑した。
なんでも、ってわけじゃないんだ。私は桃ちゃんのことしか分からない。例えば桃ちゃんが黒子くんを好きになった理由はゴリゴリくんの当たり棒を貰ったからだとか、好きな食べ物はさくらんぼだとか、特技はさくらんぼの茎を舌で結ぶことだとか、そんなことくらいだけど。
桃ちゃんには彼氏さんが居た。その人は桃ちゃんが高校に入学した当初から桃ちゃんを好きでいて、私は二人がくっつくようにお膳立てしたこともある。けれど私には男の人を見る目が無かったらしい。

「桃ちゃん、なんで彼氏さんと別れたの?」

なんて、訊かなくても知ってる。桃ちゃんのことならなんでも。
彼、束縛の激しい人なんだ。付き合ってから豹変するタイプ。それに酷い浮気性。

「彼、束縛が激しいんだよねぇ。一緒にいて疲れちゃって。それに酷い浮気性でね…。」

ほら、当たり。
わたし 桃ちゃんのことならなんでも知ってんだから。昨日帰りに青峰くんとマジバに寄ったことも、お夕飯はハンバーグだったことも、昨日お風呂の時にピンクの入浴剤使ったことも、今朝は髪が上手くまとまってちょっと気分が良いことも。ね、私物知りでしょう。

「……そんな人と付き合わせちゃってごめんね、わたし本当に男の時見る目無いね。」
「人を見る目はあるのにね。なまえちゃん相変わらずだなぁ。」

クスクスと可笑しそうに桃ちゃんが笑う。
本当だね、桃ちゃんの言うとおりだ。
人を見る目はあるから良い友人に恵まれた。けど男の人を見る目は無いから彼氏が出来ても長く続かなかったり暴力を振るわれたりした。

「桃ちゃん、少しは傷付いてるかなぁって思ってたけど元気そうで良かったよ。」
「そんなことないよ、これでも少しは傷付いてるんだよ?」

なまえちゃん酷いなぁ、って苦笑い。
ごめんね、知ってる。振られた時は気丈に振る舞ってたけど、そのあとに少し泣いたこと。その程度には、好きだったんだ。
これで暫くフリーだなぁ、と桃ちゃんが呟いた。
じゃあ、

「じゃあ、」
「うん?」
「…ケーキバイキング、行こっか。奢るよ。」
「え、いいの?」
「…うん。傷心旅行のケーキバイキング板。」

危なかった。わたしにもチャンスある?なんて訊いたらこの関係が終わってしまう。
隣で 何食べようかなぁと食べたいものを指折り数える桃ちゃんを、可愛いなぁと思いながら横目に眺める。
私は、一生彼女の隣には立てないんだろうなぁ。




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