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二度と目覚めない眠り姫

 
 まさか、この男が死ぬなどとは夢にも思わなかった。

 自信家で、性格が悪くて、それに比例するように口も悪くて、恩人の本懐を遂げるという野望があった、この男が。こんな、いとも簡単に。
 下船するときは常に周囲に気を配って隙をつくらなかったこの男は、流石に、仲間を疑うほど人間不信ではなかったのだろう。
 単なる私怨だ。この男への、ではない。海賊への、だ。海賊に母を殺されたが故の、八つ当たりだ。この男は何も関係はない。

 コーヒーに薬を仕込んで二時間経った。コーヒーを口にして十数分後、眠くなったと言ってソファに横たわった男は、起きる気配がない。
 男に近寄り、口元に手をかざす。虫の息という表現が合っているような、弱々しい寝息だ。
 口にして最初に眠くなり、眠気に身を任せて眠ればあとの祭り。数時間もすれば死ぬという、恐ろしい薬だ。
 眠りに落ちるように死ぬのだ、苦しみはない。

 情がわかなかったわけじゃない。好意が無かったわけじゃない。この男にも、クルーにも、少なからず情を抱いていたし好意はあった。
 けれど、最初に見たときから殺そうと決めていたのだ。
 この男の信頼を得るのに四年かかった。自分の身を自分で守れる程度になるのに二年かかった。
 時間をかけすぎたんだ。だからこんなにも胸が苦しい。
 幸い、今この船は島に停泊している。朝になったら買い物に行くとでも言って船を降りればいい。
 誰も疑わないだろう。信頼を、されているはずだから。

 こんこんと眠るローの頬に触れる。
 本当に、ただ眠っているだけのように見える。
 そっとローの唇に自身のそれを重ねた。
 愛していた。少なくとも、私は。時折ローに誘われて体を重ねる程度には、ローを愛していた。
 こんな形で会いたくはなかった。別の形で出会っていれば、きっと。
 まあ、それは、来世に期待することにする。



二度と目覚めない眠り姫

(おやすみなさい、王子様。よい夢を。)

title:瞑目



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