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視線が痛い個性

(個性持ち)
(通学方法捏造)
(いつかにメモで書いたやつ)

ちくちくちくちく、ここ何日か皮膚がちくちくと痛むことがある。思い返してみれば痛むのは食堂に向かう途中にある普通科の教室を通ったあたりからだ。それからずっと、俺が教室に戻るまでちくちく、ちくちく。細い針で皮膚の表面を軽くつつかれるような痛み。我慢できないほどじゃあないが、おとなしく無視できるほどその痛みは弱くない。微妙なラインだ。ちくちく、ちくちく。
いつ頃からかは覚えちゃいないが、通学につかっていた電車内ですらあの痛みを感じるようになった。不思議なことに痛みは一方向からしか感じない、そして俺が痛む皮膚の側へ視線を向けるとそれは止む。視線、もしくは意識。それらがなんだって俺に向けられるのか。


「爆豪、荒れてんなあ。なんかあったん?」
「うるせえ、なんもねえよ」
苛立ちに任せて軽く掌を爆発させると、上鳴が情けない声を出して離れていった。その先で落ち込みながら瀬呂や切島に慰められているのを無視して、あの地味な痛みのことを考えた。

今日も今日とて、特定の教室の前であの痛みは現れる。開け放たれたドアの前を通るときに曝された肌はちくちく痛み、壁で遮られたときそれは消えた。なるほど視線か、ならこのクソ個性の主は教室の中だな、と踏んだはいいものの、俺が教室の中に視線をすべらせるもあの痛みはこなかった。

放課後、いつもなら帰宅するサラリーマンや学生で箱詰め状態の電車内が今日は珍しく空いていた。ひとつだけ空いていた座席にドカッと腰を下ろすと、途端にちくちくと肌が痛みだした。普段は右方向から飛んでくる痛みが、今日は真正面から。それにその痛みは普段の比ではない。
視線だけを動かして正面を見遣ると、雄英の制服を着た女子生徒が座っていた。もう少し視線を上げると、まるで身を守るようにかばんを両手で抱えている。そのまま顔をあげてそいつの顔を見た。誰の記憶にも残らねえような平凡な顔立ち、黒い髪。その目はしっかりと俺を見据えていて、目が合った途端眼球に尋常でない痛みを感じ、思わず顔をしかめた。するとその女はハッと大袈裟なまでに驚いて顔を伏せた。

それから数日、通学に使う電車内でも校内でも、あのちくちくとした視線を感じることはなかった。久々に訪れた普通の日常に内心喜んだが、それと同時に何故かあの視線を感じないことが落ち着かなかった。

それからまた数日、帰路につく電車内であの視線を受けていた。視線の主は俺の目の前、座席に座って、いつかと同じように身を守るようにかばんを両手でしっかり抱えている。あのときとは違い、女は俺のすぐ真下にいるもんだから、そいつのことがよく知れた。
ちら、と俺を見上げ、俺が女を見下ろしているのを知ると顔ごと視線を逸らす。だがまたちらりと俺を見上げ、視線を逸らすの繰り返し。
その都度頬を赤く染めるなどするこいつに、ああ好きなのか、と頭の片隅で思う。
緊張からか首まで赤くしたそいつを見ていたら、俺にまで緊張が移ったらしい。少し心拍が激しい。
 


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