悲喜劇
うるせえうるせえうるせえうるせえなあ。
壁越しの喧騒。目はとっくに醒めていたけれど、どうにも参加を断りたく鳴るような会話。扉に手を掛ければ、真っ先にリゾットと目が合う。
「居たのか、プロシュート」
「少し前にな。それにしても、ったく……てめぇらはどうしてそうマンモーニなんだ?」
仮眠室から出て、うんざりとしたようにそう言ってやると、「じゃあアンタがどうにかしろよ」とギアッチョが唸った。
「んなの簡単じゃねえか」
オレは目を竦めて話題の子供に目をやる。へらりとした笑みを返された。
突っ伏して寝ていた所為で乱れた襟元を直す。そのついでにと子供の握っていた紙を引けば、いとも容易く小さな手は離れていった。
正直、ここまであっさり手に入ると思っていなかったオレは、少しだけ目を瞬く。
「ああ」
そんなオレを気にせず、異口同音。合点がいったように、リゾットとギアッチョは同時に声を上げた。
ほ、本気で思いついてなかったのか?こいつらは……ッ!
「なるほど」
「確かに簡単だな」
「馬鹿だろてめーら」
肩を落とすオレと、
「いやー。それはやっちゃアウトかな、って」
「子供相手に大人気ねえもんなあ」
呆れたような顔をするメローネとホルマジオ。
「無駄に時間を使うよりマシだろうが」
二人を睨んで、封を切る。イルーゾォはまだ鏡の中。
大人気ねえ?アサシーノがなにを生温いことを言っているんだ。子供と一緒になってギャアギャアやっている方が、よっぽどガキじみていることをこいつらは分かってねえのか?
――いや、子供を眺める二人の表情からするに、どちらかと言うとそれを『楽しんでいた』というのが正しいのかもしれない。
「別に隠さなきゃいけないものじゃないしな」
子供はホルマジオの腕の中で、相変わらず軽薄な笑みを浮かべている。
こいつはこいつで、本質が見えねえ。まあ、そういうのはオレの仕事じゃあない。
「じゃあさっさと渡せよガキ!」
「だって渡したら、直ぐにでも殺されそうだったから」
確かに、さっきから観察していれば分かるが、メンバーは全員警戒態勢を解いていないし、子供は子供で、不審な動きをしないように気を張っている。
「どうやって見せようかな、って悩んでた」
それさえも怪しいといえば怪しいけれど、子供の表情にこちらへの敵意はないように見えた。
オレは思い出したように手紙を取り出して、タイプで打たれた文章に目を通す。
「……何と?」
リゾットは言う。
「前口上、時候の挨拶、定型文」
中々本題に入らない、相変わらずの回りくどい文章。ギアッチョが目に見えてイライラし始めた。
「要約すれば、」
つい溜息が漏れる、内容。
「『暗殺向きのスタンドの為、そちらでの預かりを希望する』だそうだ」
「ハハッ、恩赦もでるってよラッキーだな」と笑うと、ついにキレたギアッチョが子供に掴みかかる。
「どういう事だァあ”あ”!?こちとら遊びでヤッてるんじゃあねえんだぞ!?」
声変わりしたばかりの声に無理やりドスを聞かせた唸り声。やつにしては、耐えた方か。
「大したことしてねえくせに」
子供はその怒声に眉ひとつ動かさない。間近に迫るギアッチョの顔を睨んで、そのまま部屋に居る全員に視線をよこす。
今までの人懐っこい様子とは一転して、
「所詮人殺しが、偉そうなこと言うなよ」
妙に冷たい声でそう言った。
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