nero e bianco
子供を拾った。拾ったというのは語弊があるかもしれない。巡り合わずとも何れ出会うはずだったろう。
シゴト帰り、アジトの前の路地裏でしゃがみ込んでいたそれを、半ば無理やりアジトまで連れていく。『子供』と呼びかけると酷く不満そうに自身の三白眼を歪めたが、思うより素直に中に入っていった。
気に入ったからとか気になったからという訳で拾ったわけじゃあない。手にした手紙を封している蝋が、俺の所属するパッショーネのものだった。それだけだ。
「ジロジロ見るなよ。お兄さん」
椅子に座らせて観察していると、舌を鳴らされる。
汚れてはいるが高価そうな服と、長い睫毛に囲まれた目付きの悪い瞳、まだ柔らかそうな銀色の短髪。椅子の高さに少し足りない足を持て余し、生意気な口調で俺と対峙する、本当に只の子供だ。
なぜそんな子供が、マフィアからの手紙を持っているのだろう。
「それは……すまない」
それより何よりも、俺は子供の扱いに慣れていない。
始末書と報告書を書くこと。この仕事についてようやっと習慣になったのはそれと、暗殺だけだ。
関わりの少ない生き物の扱いに困って黙ると、子供はやれやれと言うように肩をすくめ、浅くため息を吐いた。年端も行かない見た目にそぐわない、少し気障な動作。
「なんでそこで謝るかな。お兄さん、本当に暗殺者?」
「ああ」
「信じらんねえ!ちゃんとパッショーネの一員、って証拠見せてよ」
やはり組織関係の人間だったか。しかし、証明とはどうすればいいのか。
この場でこの子供を殺してみても、一銭にもならない。と、考えたところでいつからこんなモノの考えをするようになったのかと自分に小さくない落胆を覚えた。
「そうじゃないとこれ、渡せねーじゃん」
一人落ち込む俺を気にもとめず、子供はヒラヒラと白い封筒を揺らした。
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