HELLOWEEN!

「Sueses sonst gibt es saueres!」

 扉を開くとそこには、額に包帯を巻いたロゼットが、愉しげな笑みを浮かべて立っていた。
 聞きなれない言語と血の匂いのしない包帯に目を何度か瞬いて、プロシュートは子供の顔を覗き込むように腰を屈める。

「ハ?」

 怪我も、ない。
 男は子供にバレぬように、努めて静かに息を吐いた。そして冷静な表情をつらぬく。当人だけが無自覚な、なまぬるい関係。

「あ、そっか。えっと……Trick Or Treat!」

 それに気づいているのかいないのか、子供は無邪気な言葉と共に男の胸に体を預けた。
 首筋に当たる柔らかな毛並みに、今度は英語かァ?とプロシュートは眉をしかめ、ゆっくりと口角を上げた。
 
「なんだっていいからさ、Trick Or Treat」
「……もうちょっと、コッチに来いよ」

 プロシュートは一瞬考えるように口を閉じ、人差し指をくいと曲げ子供を呼んだ。
 無防備に顔を近づけるロゼット。その小さな顎を掴み、

「ン――ッ!?」

 男は噛み付くように口を合わせる。
 あまりに大人気ない大人の口づけに、子供は大きく目を見開いて抵抗を繰り返す。しかしともすれば女性的にすら見えるほど端正な容姿のプロシュートの、その美貌にそぐわないほど鍛えられた肢体は押したところでびくともしない。
 子供の高い体温と口内の柔らかい肉。それらを堪能するように、プロシュートの舌はロゼットの口を蹂躙した。唾液の交差する水音。 

「――は、な、せっ!」

 瞳に涙をいっぱいに貯め、ロゼットが最後の抵抗にと男のよく動く舌に噛み付――く寸前に、軽いリップ音のキスをしてそれは離れていった。
 ようやく訪れた新鮮な空気に、子供はふはふはと息をする。一杯一杯なその表情を見てプロシュートは楽しそうにのどの奥で笑い、

「悪戯、シてほしかったんだろ。満足か?」

 『Kätzchen』と、とっておきの甘い声で囁いた。
 そして、細く長い指で唾液で濡れた唇をなぞってみせる。

「ペァヴェァァァァスッ!くたばれ!気色ワリーんだよ!!」

 それこそ『フロイライン』なら瞳だけで腰が砕けてしまいそうな色香も、この子供にとっては有害な鱗粉にでも見えるのだろう。吐き捨てるようにそう叫んで、男の白皙の美貌に思い切りよく爪を立てた。
 プロシュートの柳眉が歪む。

「そ、そんな顔しても怖くねェんだからな……っ、ばーかばーか!」

 急いで膝の上から飛び降りるロゼット。しかしプロシュートに手首を捕まれ、すんでのところで部屋を出ていくのを阻止されてしまった。

「待て」
「……なんだよ」

 微かに怯えたような、それでいて抵抗することをやめない、強い光をたたえた瞳。
 もう一度だけ、プロシュートの口角が上がる。

「Trick Or Treat――一方的っつーのは」

 よくねェよな、と続くはずの言葉は、

「ヘル プロシュート」

 桜色の唇で塞がれてしまう。
 今度は子供の顔に、得意げな笑みが浮かんだ。

「これで、満足?」
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