○○にはミルク粥

 エンジンの音、ガレージのシャッターが上がるやや軋みぎみの音、足音、楽しそうな子供の笑い声。

「Sono a tornato!」
「だー、つっかれたァァ……ッ!」

 リビングの扉が開かれる音と少年の溜息。
 Bentornato。緩く柔く愉しげに。異なる口からは同じような言葉が三者三様、零れていった。

「こいつ目ェ離すとすぐどっかに行きやがる」

 大きなショップバックをいくつも抱えた、もとい持たされていたギアッチョは、それを投げるように放って大股で部屋を横断する。そしてドスンとソファに腰を落ろして、もう一度深く息を吐いた。
 そんな同僚の様子をメローネは目の端で笑ってから、台所に彼を労るためのビールを取りに行った。いくらか秋めいてきたとはいえ、今日も見事な青空。長袖を後悔したとばかりにまくった彼の、その白い腕はかすかに汗ばんでいた。

「見てみてプロシュート!似合うか?」

 ギアッチョを振り回すだけ振り回した子供、当のロゼットはいまだ元気が有り余っているようで、きらきらと瞳を輝かせながら、もうすでに着替えているらしい新しい服の感想を求める。くるりと一回転してから、革張りのソファに横たわるプロシュートの上にまたがった。
 男は閉じていた瞼を片目だけ持ち上げて、

「あーはいはい似合う似合う。超似あってんゼッ」
「愛がない!メローネッ。このソックスも新作なんだけどさー」

 ロゼットはアーガイル柄のそれに包まれた足を得意げにぶらつかせる。
 よく冷えているビールの缶をギアッチョに投げたメローネは、大げさな程に腕を広げて満面の笑みを浮かべた。

「今日もディ・モールト可愛いぜロゼット!」

 話の通じない男にロゼットは唇を尖らせる。

「今日も、じゃなくて服の話――「このまま押し倒したいくらいに、サイコー」
「急に笑うのヤメるのヤメてよ」

 二人の上に覆いかぶさるように、メローネはロゼットに顔を近づけた。影になった表情。子供の顔からも笑みが消える。
 そんな中、巫山戯た会話は左から右へ流しつつ、解けてしまったロゼットのチョコラータ色のリボンタイを手早く結び直すプロシュート。面倒見の良い男である。

「もう!」

 望む答えが帰ってこないことに頬をふくらませる子供は、俊敏な動きでホルマジオに抱きつき、

「ホールマジオッ」 
「ン?随分キマってるじゃねェかロゼット」

 甘えた声で彼の名前を呼ぶ。
 床に座りこんで雑誌をめくっていたホルマジオ。会話にも混じらず気づいていないふりを決め込んでいた彼は、ようやく順番がきたかと、いつものようにロゼットの小さな頭をガシガシと撫でた。そしてにかりと歯を見せて笑う。

「ニットかァもう秋だな。いい色だ」
「だっろー!かっこいい?カッコイイ?サングラスもあるんだぜ」
「おう、食べちまいてーくらいカッコイイぜ」

 ここで『可愛い』と言わないあたり、ロゼットの性格を心得ている。案の定機嫌を直したロゼットはニコニコと、ホルマジオの首に腕を回した。オレンジ色のレンズ越しの瞳はネコのように細められている。

「ふっふっふ。ホルマジオはいいな。やっぱり分かってる。すげー愛してんぜー」

 お礼のちゅー、と可愛らしいリップ音と共に頬に唇をキスをする子供。ホルマジオは嬉しそうにそれを受けた。
 そして「おれにはー?」と後ろで笑うメローネに舌をだして、ロゼットはまたくるりとステップを踏む。

「リーダーにも見せてくる!」



次回予告
「ハーフパンツから覗く白い膝小僧もとても愛らしい」
「誰だよアンタッ!」
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