泣き声のデュオ
アジトに戻れば、玄関先からいつも以上に異常なのが伝わった。
しゃくり上げるギアッチョの声と――すすり泣く子供の声。
「ば、馬鹿野郎!ど、どうして、お前、まで、泣く、ン、だ、よ」
「だって……お前が……泣く、から……」
廊下の向こうに見えるのは、おろおろしたリゾットとにやにやとそれを眺めるホルマジオ。爆笑するメローネの声と、ぐったりとしたプロシュートの足。
このままソルベと呑みに行きたいなーと遠い目をしてると、イルーゾォがすごい勢いで近づいてきた。それは奴にしては恐ろしいまでの速度で、必死な形相はちょっとしたホラーだ。
「お、おかえり……」
慣れない運動の所為か息を荒げる同僚。
「ただいまー」
どうしたの?と聞くのを待っている黒い眸を見返して、僕はそこで黙った。
一瞬の沈黙。
「……ジェラートって、子供の扱い、慣れてるよな」
イルーゾォは恐る恐るそう言った。「歳的に」と引きつる青白い頬を、力一杯つねる。
「なに?どうしたの?」
「兎に角、来てよ」
情けなく眉を下げるイルーゾォに続いて、リビングに入る。よくよく見なくとも、ますますカオスだ。
説明を聞けば、大の大人が揃いも揃って、子供に誂われているだけのことだった。「なんてひでェこと言うんだお前!」と泣き出したらしいギアッチョの臆面もない涙を羨ましく思うには、僕はこの仕事に身を浸しすぎた。
「そこのガキ」
それにしても、なんてめんどくさい。こんなことの為に僕とソルベの時間が削られているのかと思うと、態度も悪くなるものだろう。
僕の言葉に、涙に濡れた瞳をこちらに向ける子供。暗殺者が嘘泣きを見破れないのは問題じゃあない。嘘泣きに、振り回されているのが問題なのだ。
「賢いテメーが、どうしてこんなミスをした?」
愚策。
「……勝ちに、急いじゃった?」
「まだまだ。大人を甘くみるなよ」
瞬時に乾く瞳、という技はまだ手に入れていないよう。未だ涙が溢れる瞳を細めて、子供は肩を竦めた。
「暗殺チームだから、舐めてたのか」
「逆だよ。長期戦になったらこっちが不利だから」
俯くと、白銀の睫毛が濡れた頬に影を落とす。綺麗な刀身、みたいだなと思う。
視界の端で、イルーゾォの顔がひきつった。
「リーダー……やっぱりおれは……!」
「はああああああ!?ふざけんなよ!!ちょっとでもイイヤツだと思ったオレの気持ちを返せ!!今直ぐ返せ!」
何かを言いかけたイルーゾォを遮って、間欠泉の如く爆発したギアッチョ。
「うっせーな」
そう言ったプロシュートは割とどうでもよさそうに、顔を顰めてテーブルに伏せた。
「うむ……。子供だと思っていたが、中々役に立つかもしれないな」
演技が得意なのは、お前らの中にいない。リゾットはさっきまでの情けなく様子とはうってかわって、『リーダー』の顔をしている。
ここまで計算しての演技なら、この子供も大したものだけれど……。
「へ?」
一番驚いているのは、当の子供だった。なんつーマヌケな顔。
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