白銀の星とアルコール「承太郎さん」
「なんだ?」
「じょーたろーさん」
「なんだ」
「じょうたろーさん」
「だから」
「じょーたろう、さん」
「……やかましいぞ」
叱責にもふふふ、と微笑むオペラ。いつもより舌っ足らずな声の主は、承太郎の膝の上で、機嫌よく彼に抱きついていた。その頬は赤く、目元はとろけている。
「やかましい男は、お嫌い。ですか?」
「……普段のお前の方が好ましい、ぜ」
承太郎は目元を強ばらせ、更に顔を近づけてくるオペラの腰を抱く。その薄い体に少し驚いていると、青年の酒気を帯びた唇が今にも触れそうな距離にあった。
赤、白、ロゼの瓶がいくつも床に転がる。飲んだのは殆ど承太郎なのだが、彼は顔色一つ変えていない。
「だってー、承太郎さんと会えるの久しぶりなんですもん」
俺嬉しくって、と首に回した腕に力を込め、オペラは額を承太郎の額に重ねる。伝わる上がった体温。
酒に浸ったオペラは、普段の彼より少し馴れ馴れしくて、
「強くてー、かっこよくてー、賢くて。承太郎さんみたいなお兄さん欲しかったなー弟も欲しいんですけどねー」
増々素直になっていた。
酔っ払いが、と呆れる承太郎をオペラはじっと見据え、へにゃりと顔を綻ばせる。
なんて無防備に笑うのだろうか。この、自分に酷く懐いている青年を、扱いに困るほど可愛く思えど、煩しくなど一度も思ったことのない承太郎。いくら歳と共に丸くなったとしても彼にしては寛容な態度で、年下の友人の動向を見守った。
降り注ぐリップ音。
「――オペラ、てめえはホモか」
が、額や頬にいつまでも執拗に贈られるアルコール漬けのキスにはいささか辟易した様子。
ここまでされても放っておくことが出来ない自分に、承太郎はため息を吐いた。そして片手でオペラの顔を固定して唸る。青年は理解出来ないと瞳を瞬いた。
「違いますよ。グリルバイツァーです。目を閉じて下さい」
そう言ってオペラはくすぐったくなるような笑い声をあげる。それから、頬に添えられている承太郎の手を取り、唇を落とした。そこからも伝わる熱。
「詩人は、専門外だぜ」
「じゃあ承太郎先生専門のヒトデさんとかイルカさんは、どうやって尊敬と愛を示すんですか?」
「話すと長くなるぜ」
「出来るだけ手短に教えてください」
承太郎はもう一度嘆息を吐いて、ソファから立ち上がった。
「あは、お姫様だっこだ」
軽々と成人した男を抱える承太郎。逞しい腕に、オペラはキャッキャとはしゃぎ出す。
「いいから、少し黙ってろ」
「承太郎さんったら酔うと冷たい」
俺不満、不満ですよ、と騒ぐ耳元の哄笑。男は黙って青年をベッドに下ろす。
まだなにやら喋っているオペラの髪の裾に、触れるだけのキスをして、承太郎は背を向けた。
世界最強流の口付け
「意味は?」
「考えろ」
「ア・イ・シ・テ・ル、とか」
「……やれやれだぜ」
「酔っ払いは早く寝ろ、おやすみ。だぜ」と、承太郎は少しだけ口角を上げた。