寝起きとニ面性 コンコンと手慣れた様子で重厚な扉が叩かれる。礼儀正しい――少なくともこの部屋の主には敬意を払っている――彼は大人しく返事を待つが、なかなかそれは返ってこない。
少し待ってからジョルノは静かに扉を開き、
「オペラさん失礼しま……ッパードレのゲス野郎!しょうこりもなくオペラさんのベッドに潜り込んでるんじゃあないッ!」
憧れの人の寝台に、全裸の父親がいるのを見て落ち着いてられる少年がいるだろうか。
DIOはジョルノに気付くと、気怠げにそちらを見やる。
「WRY……アロゥ、ハルノ」
「五月蝿いですよ早く灰にでも貝にでもなって下さい」
ジョルノの瞳には身内に対する親愛の情は一切なく、興味もそれ程なかった。あるのは少しの嫌悪と憤怒の色。いつもはそれを見て微笑みを浮かべるはずのオペラも、今は深い眠りについていた。
「そ、そう言うな。そうだ、今日はハルノにいいものを見せてやろう」
「くだらなかったら貴方の前歯を全部エチゼンクラゲに変えます」
「流石このDIOの息子!人間には出来ないことを気軽にやってのけるッ!そこに痺れ「早くして下さい。その無駄に動く舌をアロエにしてあげましょうか?」
どの刑罰もいとも容易く行われるえげつない行為。
「まあ見ていろ。オペラ。起きろ、オペラ」
「ちょっと、オペラさんは寝かせておいてあげてくださいよ」
DIOはオペラの薄い肩を軽く揺さぶる。すると青年の口からは微かに声が漏れ、どうせあんたが遅くまで振り回してたんでしょう?とジョルノが言い切る前に、長い睫毛が持ち上がった。
「Hi, how do you find this morning?」
甘やかな声でDIOが囁く。未だ睡魔と戦っていた彼の瞳は、DIOの金糸のような髪を捉えるとまるで花か何かを見たときのように綻び、
「I find this morning beautiful.真っ先に君を見れて、しかも俺の可愛い小鳥さんの声で起きれるなんて。でも愛しい人、もう少しだけ君と微睡んでいたいんだ。俺のわがまま、許してくれる?」
オペラはその艶やかな髪に白い指を絡めDIOをゆっくりと押し倒した。流れる出る甘言。その間も口は止まらない。
「本当に君はいつでも美しいね。黄金の髪とどんな宝石よりも蠱惑的な赤い瞳。今直ぐ起きて君から離れるなんて、俺にそんな辛い選択は出来ない。ああDIO、大好きだよ」
何時の時代の口説き文句とも少女漫画の台詞ともつかない言葉の数々は、オペラの平常より低く穏やかな声に乗せられていて、DIOの顔にはうっとりと笑みが浮かんだ。
ジョルノは驚愕に言葉を失ったまま、呆然と立ち尽くす。
「オペラ、ジョルノが見ている。恥ずかしいじゃあないか」
「ふふ、可愛いねDIOは。それと、Buongiorno.僕の可愛い太陽さん」
DIOを押し倒した体制のまま、オペラはジョルノに笑いかけた。少年の心臓がドキリと跳ねる。
「会えて嬉しいよ。忙しいのも分かるけど、こうも会えないと寂しかった。こっちにおいで。君も一緒に寝よう。DIOだけじゃ、寒いんだ。俺のこと、暖めてくれないかな」
初流乃君、と耳元で囁かれる声は甘い。
(蕩けるうううううううッッ!!)
言われるがままベッドに引きずり込まれたジョルノ。
「どうだ」
「今余韻に浸ってるんで話しかけないで下さい」
蕩けきっている二人をよそに、オペラはさっさと目を閉じた。
寝起きの甘言:オペラが一分一秒でも長く寝たいが為に習得した特技。この親子にはどんなスタンドよりも効力を発する。