誕生日と桜




「初流乃くん、誕生日おめでとう!」
「ありがとうございますオペラさん」

 電話越しの声は、前会ったときよりいくらか大人びている。彼くらいの年頃だと一日一日の成長が目を瞠るほど。いつ背を抜かれるか、ドキドキものだ。

「プレゼント贈ったから、受け取ってくれると嬉しいな」

 後ろからは、心地良いノイズのようなざわめき。友達に恵まれた彼は、賑やかな誕生日を過ごしているようだ。楽しそうな空気にこちらまで笑顔になる。

「楽しみにしています。僕も、オペラさんに贈り物があるんです」

 そろそろ届くはずですよ、と言う初流乃くん。

「誕生日でもないのになんで?」
「それは届いてのお楽しみです、それに――」

 後ろから彼を呼ぶ声がした。今日の主役なのだから当たり前だろう。親愛と尊敬の篭った呼ばれ方に、なぜか俺まで誇らしくなる。

「呼ばれてるよ?」
「でも、もう少し!」
「また電話するよ。それじゃあね、誕生日おめでとう初流乃くん」

 そう言って受話器を置く。まるでそれを読んでいたように、静静とこの館の執事、テレンスくんがやってきた。
 足元には包み。

「オペラ様、ハルノさまからお届け物です」
「ナイスタイミングだね」




「DIO!DIO!」

 珍しくはしゃいだ声の少年が扉から飛んできた。
 彼はこちらに気付くと、いらっしゃいと何時ものように微笑む。

「どうしたのだオペラ」

 実に嬉しそうに彼の衝突を抱きとめる友人、DIO。言葉とは裏腹に、顔は盛大ににやけている。

「初流乃くんからね、桜が届いたんだ!見て見て」

 サクラ、という聞きなれない言葉と共に、取り出したのはピンク色の花枝。それは今にも溢れそうなほどに爛漫に咲いている。

「cherry、か」
「綺麗だろ?」

 その花と同じ色に頬を染めるオペラは、枝を一本、DIOに手渡した。
 見る間に、花は枯れていく。ヴァンパイアは花を育まないというが、本当のことだったのか。

「……これだから吸血鬼は嫌いなんだ」
「勝手に渡しておいて、勝手な台詞だな」

 散った花びら。少しだけ陰る、DIOの横顔。
 少年は少しだけ考えてから、今度は別の桜の枝をDIOの頭に刺した。何の躊躇いもなく刺した。刺したのだぞ。
 この時の私の驚きを分かってもらうためにもう一度繰り返す。オペラは無言で、DIOの頭に枝を刺した。

「これなら枯れないね」
「う、WRYY」

 額を伝う血。DIO!怒っていいのだよ!?

「あはは可愛い可愛い」

 ぽんぽんと彼の頭を撫でてから、オペラはこちらを見やる。さ、刺される!?

「神父様も一本いかがですか?」

 先程の残虐な少年とはまるで別人のように、それこそまるで桜の花のように微笑んだ。ふわりと香る桜と、彼の香り。
 オペラの本質はこちらなのだろう。温厚で純真、人懐っこく、自分に素直。どうしてか、DIOにだけ見せる冷酷な一面。

「いや、遠慮しておくよ。見たくなったら、またこの館にお邪魔しよう」
「それはいいですね。お待ちしてます」

 そう言って白磁の花瓶の中身を活け変える後ろ姿は、容易に手折れてしまいそう。




「なあに膨れてんだよジョルノ!」

 皆が僕のために開いてくれたパーティ。今まで、誕生日を祝ってもらうなんてことなかったからか、どうにも擽ったい。
 それももう開く寸前で、思い出したのは電話越しの少しかすれたオペラさんの声。

「別に、ミスタが呼んだ所為でオペラさんと話す時間が減ったなんて思ってませんよ」
「ごめんなさいねえお邪魔して!」

 本当に懐いてるんだな、そのオペラって人に、とミスタは笑う。
 懐いているとか憧れているとか、彼への感情を一言で表すことなんて出来ない。

「おれも会ってみてえな」
「駄目ですよ。ミスタも好きになっちゃいますもの」
「男なんだろ!?」
「それがどうしました!?あの人の前で性別なんて問題じゃあないです!」
「……お、お前」

 僕の力説に、若干引き気味なミスタ。

「そんな目で見るんじゃあない。僕のオペラさんへの思いは君が考えているような下卑たものじゃない」
「……そうっすか、ボス」

 まだ説明したりなかったが、また向こうで僕を呼ぶ声がする。



Tanti Auguri a Giorno


「「「Buon Compleanno!!」」」
「Ti ringrazio!」
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