退屈と柘榴星「暇」
秋の夜長、である。謎で最低の吸血鬼とその部下が暮らす館に迷いこんでもう大分立つ今日この頃、異国の月はまん丸で黄色く、切り分けたらとろりと蕩けそうな程熟している。
「それならばわたしを構えばよかろうなのだ」
月光よりも美しい金髪の美丈夫は今日も意味が分からない。読み終わった文庫本でそんな男の額を小突く。
「構われて嬉しいの?」
「当たり前だろう」
馬鹿なんじゃあないだろうか。
流石にこの長期間ここから出してもらえなかったり、本を読んでいる間も膝の上に頭を乗せてうだうだされたりすれば、こいつに気に入られているのは痛いほどよくわかる――まあ、ここに迷いこんでから帰り道と一緒に痛みを無くしてしまったらしい俺は、痛いと感じることなんてなくなってしまったけれど――が、いくらなんでもデレすぎだ。仮にも『悪の救世主』なのに。
「じゃあDIOのホクロを数えて遊ぼう」
面白半分で脱ぎなよと促す。少し恥じらいながら上着に手をかける姿はジョークにしては胸焼けがしそうだ。
「いやいや冗談。勘弁して。なんで君の裸なんか見なきゃいけないの。お金貰っても嫌だ」
「も、弄んだのか……ッ!このDIOをッ!」
「人聞きの悪い」
彼は吸血鬼になるときに脳味噌を置いてきたのかな。
普段は冷酷で残忍で頭がキレてイッちゃってる最低野郎なのに、こうして話しているとまるで昔からの友達かペットのようだ。軽口をたたき合うのは嫌いじゃない。
「数えてほしいの?」
「当たり前だろう」
あれデジャブ?
「よし、このDIOが直々に貴様の肌を点検してやろう」
「だが断る」
「……WRY」
「大体君、一人称が自分の名前ってどうなの?かわいい女の子だって俺としてはあんまり許したくない暴挙だよそれ。せめて身長を40cm縮めて長い髪がふわふわのかわいいかわいい美少女になって出直しておいでよ。顔立ちは綺麗なのに残念だね。残念野郎だね」
そう言ってもう一度本に目を落としながら笑えば、ゴクリと喉のなる音がした。
「オペラ」
低く唸るように名前を呼ばれる。嫌な予感がする
「待って待って、ナニに興奮してるのかな?」
「その養豚場の豚を見るような目ッ!実にイイッ!実にイイぞオペラッッ!!このDIOにそこまで楯突くとはッ!」
「落ち着いてください」
荒ぶるDIO。肩を掴む手の熱が怖い!
「わかった。観念して今夜は君の傷と痣の数を数えよう。だから
服を脱がすのは
やめてくれないか」
「わたしの下で数えればイイ。そんな余裕があれば、だがな」
おわった。