密着と飛んでくる刃物 「……悪夢だ」
なにをどうしたか、俺とDIOの間は零距離。固く抱きつく形になっている。
「素晴らしい!素晴らしいぞマライアッ!」
「ありがたきお言葉ですわ、DIO様」
優雅に紅茶を飲むマライアを、俺は少しだけ睨む。フフンと笑われた。
スタンド『パステト女神』。彼女の存在を知ったときから、この屋敷のコンセントには絶対に触れないと誓っていたのに……!!
「フハハハ!最高にいい気分だ!」
「うるさい。ハイにならないでよ」
力づくなんて卑怯だ。というか、そこで実力行使にでるなら抱きしめるのもそうすればいいじゃないか。それならどうにか離れることだって可能だったのに。
……ああ、だからか。誰だ、DIOをここまで切羽詰らせたのは。俺か?違うはずだ。
「もう嫌だ。これからだらだらしようと思ってたのに。肉々しい。むさくるしい」
目の前の隆々とした胸筋。押しても引いてもびくともしない。そもそも押そうとそこに手をずらすだけでも大変だった。DIOが変に興奮したのだ。怖い。
「口ではそう言っても体は素直だなあオペラ」
「素直だったらこんなことになってないもん」
「しかし貴様は腰が細いな。内蔵が入っているのか、このDIOとしても心配になるぞ」
腰に回されているDIOの腕に力が入る。どうせ俺は貧相な体つきだよ。でも君らが体格がよすぎる所為もあると思うんだ。
色々言いたいこともあったが、筋肉酔いで上手く言葉にならない。
「入ってるよ」
そう一言だけ返す。
「フフフ、まあいい。じっくり調べてやろう」
「……」
悦に入った表情。微かだがDIOの白い頬は朱を帯びている。ああ、気が遠くなってきた。
「ですがDIO様、そろそろ――」
マライアが女神に見えた。
「何故だ。これからが本番だぞ」
DIOがニヤニヤと不穏な発言をした瞬間、それにつっこむようにマライアの体からナイフが飛んできた。それは俺の頬をかすめてDIOに突き刺さる。
「ふむ」
「も、申し訳ございませんDIO様!! ご存知の通り磁力は徐々に強くなり、いずれそこら中から金属が飛んでまいります」
赤い血。背筋に怖気が走った。
「ディ、DIO、マライアの言うとおりだよ。早く」
「これしきのことで何故貴様を手放さなければならない」
変に格好付けてる場合か?
マライアの言葉の通り、どんどん貴金属類がこちらに向かって飛んでくる。頬に突き刺さるフォーク。
「ひっ……!」
痛みはないけれど、先の尖ったものが飛んでくる恐怖というのは形容しがたい。首筋に刃物の冷たい感触。
「も、いやだ……!」
滲む視界に、伝うDIOの血。
ザックザク刃物やフォークが刺さり、ドカドカと固そうな色々がDIOを攻撃した。
「泣いているのか?」
「泣くさ!怖い!ものすごく怖い!」
叫んでる間にも体にくっ付く金属は増え、DIOとの密着度は上がる。
一番怖いのは段々息の上がっているDIOだと思ったけれど、それより鉄の斧がこちらに飛んできたときは、正直死を覚悟した。DIOはもう血みどろだ。恐怖。
「マライアぁ」
情けない顔で女神の名前を呼べば、彼女もまた愉悦の表情を浮かべていた。ドSめ。
「構わん、続けろ」
涙目の俺を見下して、夜の帝王は勝ち誇ったように顔を歪ませる。鉄分の匂い。
「き、君が血みどろで俺が無傷なんだよ。どっちかって言うと君の負けなんだからね」
「……いい顔だな、オペラ」
喜悦満面。最低だ。
スタンドの悪用
「DIO、鼻血でてるよ」
「貴様は鼻水がでているぞ」
どっちが情けないのか考える暇もなく、今度は『鉄の処女(アイアンメイデン)』が飛んできた。