ユニットバス「ふあ……」
寝起き、と言っても時間は分からない。締め切られた厚いカーテンで空が見えない。寝た時間から、朝じゃあないことは確かだ。
相変わらず横には全裸のDIO、ベッドは家のものとは比べ物にならない程ふかふかで寝心地がよく、なかなか寝入れないもの。
ベタつく体に自然と眉が寄った。今度DIOに、歯固めの玩具でも買ってやろうかな……。
「何処へ行く」
シャワーを浴びようと寝具から抜けだすとDIOが腕を引いた。こちらを捉える赤い瞳は、野生の光が鈍く輝く。
「風呂。どっか猫が噛むからベタベタだ」
猫……牙と爪のないライオン、が一番近いかもしれない。
「俺も行く」
「巫山戯。あんな狭いところ、君と入ったらお湯が全部無くなるよ」
「知った事ではない」
ごういんまいうぇい。俺様何様帝王様は俺を肩に担ぎ、鷹揚な足取りでバスルームへ向かった。寝起きのDIOは声も低く顔も怖い。そうとくれば抵抗も面倒になるってものだ。
怖いわけじゃあないよ?いや、ちょっと怖いけど。
「私が特別に、隅々まで洗ってやろう」
にやりと笑う顔は楽しげ。
武器がなくても百獣の王。一介の学生が敵う相手じゃあない。
「遠慮しておくよ」
強張る顔で笑みを返せば、物凄い速さで服を脱がされる。鍛えられていない体と、DIOの戦える体。……ため息が出た。
タイル貼りの床。白いバスタブには、常に暖かいお湯が張ってある。どうもこのユニットバスというのには慣れない。だって日本人だもの。
DIOは俺を抱き抱えたまま、湯船に身を沈めた。ざぱあと、湯と浮かぶ花びらが溢れ出る。
「あ、薔薇……」
「アイスの仕業だな」
「耽美だね」
排水口に詰まる真紅の花びら。それより何より、腰あたりに当たり主張をし続ける、でかいモノが俺の関心を奪う。感触も熱もサイズも全て不快だ……ッッ!
「DIO、この体制やめないか?」
俺の肩に顎を乗せ、機嫌よさ気に鼻歌まで歌うDIO。男同士で密着して何が楽しいのだろう?俺はこれっぽっちも楽しくない。可愛い子がいい。
「何故だ」
「当たってる」
「当てているのだ」
「何アピールだよ……」
そうして、俺は何回目か分からないため息を吐いた。
しばらく黙って朝風呂の快楽に身を委ねていると、戸を叩く音と共にテレンスくんが現れた。
「石鹸が切れていたと思いますが」
「わあ、ありがとうテレンスくん」
湯船から手を伸ばし、濡れたままの手で執事服の彼の頭を撫でる。年下からの子供扱いに少し苦笑をした彼は、「新しい服を部屋に届けておきました。何か必要なものがあれば、お気軽にどうぞ」と言った。
「テレンスくんのセンスなら安心だ。ありがとう」
他の人達に頼むとハイファッションすぎるハイファッションだとか、DIOブランドとか、兎に角まともな服が手に入らない。
「では、失礼致しました」
敬々しく頭を垂れ、テレンスくんは去っていった。年上だけれど、どうにも可愛がりたくなる人だ。
「……WRY」
「不満そうだね。何拗ねてるの?」
「何故、テレンスには優しくするのだ」
DIOは不満げに唇を尖らせる。その表情はあまりに子供じみていて、少しだけだが可愛いと思ってしまう自分に頭が痛くなった。子供っぽければ何でもいいのかオペラ?100才越だぞ?
「敬語だし、弟キャラだからじゃあない?」
「……このDIOとて、認めたくないが弟だぞ」
衝撃の告白
「まじで」
「認めたくはないがな」
「誰の」
「……ジョナサン」
「誰」