鍵とコスチューム「貴様も、私が眠っている間退屈だろう」
「むしろ、その時間だけが俺の癒しなんだけど」
そう言い切ると、DIOはむうと唸った。可愛くない。
「そこでだ」
聞かなかったことにしたのか、DIOはしたり顔で話を続ける。
金属の擦れる音を立てながら取り出されたのは、鍵の束。どれもこれもRPGに出てくるような凝った細工のものばかりで、これでHな下着が手に入ると一瞬だけ思った。
「オペラ、お前にはこれをやろう」
差し出されるそれを黙って受け取ると、ズシリとした重みが伝わる。
「これでお前の入れない場所はない」
随分と信頼されているのか、随分と警戒されていないのか。
満悦の様子で言葉を続けるDIOを遮って、
「じゃあ出れる場所は?」
「ない」
肩を落としてため息を吐く俺に、DIOは片眉を上げた。
「まるで青髭公だ」
「馬鹿な」
確かに青髭というには、DIOは若々しいし美しい。
それでも浴びた血液の量は、かのジル・ド・レイも敵わないんじゃないだろうか。こちらの公爵は、どちらかと言うと女ばかりだけれど。それでも時々混じる男や少年。
「人間ごときの骸を、隠す必要がどこにある」
辺りに転がる肢体には、血の一滴も残されていない。死体、屍、遺体、死骸、むくろ、亡骸。すっかり慣れてしまった自分が怖い。
「それもそうだったね。じゃあ探索でもしてくることにするよ」
どこであろうと、少なくとも此処よりはマシだ。
血と、死の匂いの染み付いた『食堂』を出ようとすると、後ろから帝王は俺を抱きしめる。増々濃厚になる死の匂い。
吐き気がする。
「DIO」
「案内、してやろう」
「遠慮するって言っても、付いてくるんだろ?」
館は兎に角広かったが、意外と部屋数は少なかった。大きな部屋がいくつも。
礼拝堂があったときは一瞬そのシュールさに言葉を失ったけれど、よくよく考えてみれば親友が神父なのだからそう不思議なことでもないのだろう。
「神に祈る君って想像出来ないね」
「何か言ったか?」
「いいや」
肩を抱かれたまま薄暗い館を歩く。長い間居たと思ったが、意外と知らない場所もあるものだ。
「ここは?」
「なんだったかな」
鍵穴に鍵を突っ込む。重厚な扉は細やかな装飾が施されていて、歴史と値段の桁を考えて頭痛くなった。
「衣装室だな」
「ああ、すごいね。布面積」
いつも思うが、こいつの格好は寒いのか暑いのかどちらなのだろう。そもそも構造がさっぱり分からない。
「……君を脱がすのは骨が折れそうだ」
「き、貴様が望むなら、脱いでやらんでも――」
「いや、いいよ」
急にもじもじしだした気持ちの悪い男を置いて、俺は中の探索を始める。
パリコレなんかは興味がないからあまり見ないのだけれど、それだってここまで奇抜な服はそうそうないだろう。目に痛い山吹色。謎のハートの装飾。
「すっげー趣味……」
奇妙な服が並ぶ中、ある一線を超えると急に普通のものばかりになった。
「ん?」
「そこらは貴様の服が置いてあるだろ」
「ああ」
急に色が沈んだせいか目がチカチカする。確かにテレンスくんが買ってきてくれたものだ。いくつか見慣れないものがあるが、どれもデザインは俺好み。
「ふーん」
こう見ると色々あるんだな。
そのまま歩みを進めていると、いつの間にかDIOが腰を抱いていた。もうこいつの行動に驚くのも飽きた。
「DIOもこういうの着れば?」
「貴様も、私のようなのを着ればいい」
絶対に嫌だ。こんな恥知らずな格好ができる精神も、腹筋も俺は持ち合わせていない。
セーターやシャツが終わったと思ったら、途端に奇怪な服に戻った。ここからまたDIOの服ゾーンなのだろうか?
「うーん、すごいな……」
「これは貴様のものだぞ」
「えええ!?」
一枚手にとってみると、確かにサイズはDIOより俺のものだ。しかしこれは……!
「ホルホースらが買ってきたはいいが、テレンスフィルターに引っかかったものだ」
「て、テレンスフィルター?」
よく分からないけれどグッジョブとしか言いようがない。
なんだこれは、服か?どこも隠せないような下着は黒レース。それを覆う薄紫のベビードール。
「ホルホースは俺の性別を間違えてる……!」
「そんなものよりスーツの方がそそると言うのにな」
「それもどうだろう」
並ぶ奇妙な服。
そしてここよりも更に奥――、極彩色とパステルカラーばかりのそこ一帯は、正に異彩を放っていた。
「……あそこは?」
「テレンスが買ってきたくせに、テレンスフィルターに引っかかったものだ」
メイド服、ナース、ウェディングドレス、セーラー服にフリフリのワンピース、バニーガールとチャイナ服、軍服、体育着、シスター、浴衣、その他エトセトラ。
「テレンスくん……」
よし、燃やそう
「着てみるか?」
「全力で断る」
「着てみれば良い」
「嫌だ」
「着ろ」
「いや」
「着せられたいか?」
「無理」