sea star
私と空条の付き合いは、ほんの些細なことから始まった。
「えっと……ウミウシ」
「し、し……しらたき」
それは私が友人と、高校生にもなってしりとりをしていた入学後一週間目に遡る。
「き……鱚」
「エリザが言うと、魚しか浮かばないから不思議ね。す…スズキ」
「きみも毒されてきてるわ。金目鯛」
「うるさいわよ。椅子!」
「スベスベマンジュウガニ」
「……妊婦」
「フサトゲニチリンヒトデ」
「さっきから長い!」
そう友人が立ち上がるのと同時に、クラスメイトも一人、自分の席から立ち上がった。
『JOJO』と呼ばれるその男子生徒はあろうことか、その長い足を最大限に使ってこちらに歩み寄って来て、
「マヒトデ」
真顔で何を言うのだろう、と当時の私は目を剥いたものだ。しかし反射というのは怖い。
「……マヒトデ科」
海洋学者の父に叩き込まれた知識が、咄嗟に口から出てしまう。
空条は相変わらずむっつりとした表情で、
「ヒメヒトデ」
「ルソンヒトデ科」
「アカヒトデ」
「ホウキボシ科。タラちゃんの妹の名前は?」
「ヒトデ」
つまり奇妙な友情はここから。
○
「――話って、なに?」
そしてしかるべき時間を超え、私たちは随分と仲良くなった。暇があれば二人で海や水族館に行ったし、学校をサボってケーキを食べにも行った。
何がいいたいのかと言えば、私と空条はいまやとても仲がいいのだ。なんだかんだ私の我儘に付き合ってくれる優しい友人の悩みはこちらとしても聞いてあげたいし、出来れば少しでも力になりたい。
私は相当真剣だった。
「おれには、悪霊がついている」
その言葉を聞くまでは。
私は、私が空条の立場だったら直ぐにでも友達をやめるレベルで爆笑した。それはもう高らかに笑った。青い空が私の笑い声を吸い込まなくなるほど、息が出来なくなってついには屋上の床に膝までついてしまったほど、だ。
「てめえ……ッ」
怒気を孕む低い声を聞いてさえ、ますます笑いがこみ上げるだけで――。
「ご、ごめ、ちょ、ちょっと心の準備……が、! あ、あくりょ……っあはははははははははははは!!」
空条はそんな私を軽く蹴飛ばして、言うんじゃなかったぜと舌打ちをする。
「ごめん、落ち着いた。っく! きゅ、急にどうしたのカナ?」
「顔笑ってるぜ」
「痛い!」
力一杯アイアンクローを食らわされ滲んだ視界。空条の後ろの扉から、ガラの悪いお兄さんたち4人がやってくるのが見えた。
「く、空条?」
「あ゛ぁ゛!?」
骨まで響く低音。相当怒っているようだが、今は私を気にかけるより、背後の気配に気づいて欲しかった。
「お客さん、ですよ」
ガラの悪いお兄さん方は、空条の唸り声を効いて微かに怯んだようだったが、そのままお引き取り願えるような面構えではなかった。
「JOJOォ〜〜〜ちょっといいかァ〜〜?」
リーダーらしいヌンチャクを持った男が、一歩前に出てくる。眉毛のないおっかない顔は、どうみても高校生には見えなかった。と同時に、私の横に立つ男も、綺麗な顔をしているが相当の老け顔だと思い直す。
じっと顔をみつめるとデコピンを贈られた。何故バレてしまうんだろう。
「いちゃついてんじゃねえよ〜〜てめえらよ〜〜〜!」
それにしても、なんて馬鹿みたいな喋り方なんだ。
知性の欠片も見つからない男の顔に呆気に取られていると、いつの間にやら周りをぐるりと囲まれていた。四面楚歌。というか強面楚歌。
ナイフを手に更には私服のこの人達は、どうやって屋上まで上がってきたのだろう。
「やれやれだぜ……」
勿論、何人掛かりだろうと空条の独壇場になるんだけれど。
(途中、空条が二人に見えたのは、あまりのスピードからだろうか。)
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