言葉にするよりも


 物好きもいるのだなというのが第一の感想だった。
 その次に、顔に血が上るのを感じた。それは怒りのはまた違う感覚で、私は阿呆のように口を開いて突っ立っていることしか出来なかった。
 卒業を目前にした催し物の一つ。屋上から何十人かの生徒が今まで言えずにいたことを叫ぶというほんのお遊びの最中のことだった。

「俺、本気だから!」

 お恥ずかしいことに、私は告白されるのがこれがはじめてだった。
 耳に反響する友人だと思っていたクラスメイトの声。

『エリザちゃーーーん!! 俺だーーー!! 結婚してくれーーー!!』

 それは先程、冬の高い空に吸い込まれていった。
 正直に言えば、もう少し言葉を選べなかったのかとも思う。校庭に集まった同級生たちの視線が、一斉にこちらに向けられている。こんなにも人から注目されたのは、空条とはじめて一緒に登校した日以来だ。

「そう、だ、く、じょ……ッ!」

 私は隣に立つ彼をすがるように見上げる。目元は帽子の影になってしまっていてよく見えないが、

「……面白がってんじゃあねえよ……ッ!」

 口が確かに笑っている。見れば、更にその隣にいる花京院も肩を震わせていた。なんて友達甲斐のないやつらなんだ!
 混乱する私の気も知らず、司会役の生徒が「では、エリザさんお返事をどうぞ!」と囃し立てる。
 返事も何も、何を言えばいいのかさっぱりわからない。普通に考えればプロポーズを受けるか受けないかということだろう。
 プロポーズ!?
 自分が関わるとは想像もしなかった単語に、私は「意味が分からないわ!」と不誠実にもそう叫びそうになった。
 すぐにその考えを打ち消すように頭を横に振って、「ごめんなさい」とそのまま頭を下げた。



 その後の打ち上げには気まずくて――件の彼は気にしないで来いと言ってくれたのだが、周りの好奇と納得するような目がいたたまれなかった。――行く気にはなれず、いつもどおり空条と帰ることにした。
 花京院は転校してきてまだ二月程だというのにすっかりクラスに馴染んでいて、一緒に帰ろうとした彼は他の同級生たちに全力で引き止められていた。
 ――空条を止められる人間は、そういない。

「……」

「……」

 なんとなく、嫌な沈黙が続く。

「なんか、言ってよ。うんとかすんとかぎゃふんとか」

「何に言やあいいんだよ」

「あー……今までモテないだの女としての魅力がないだとか言ったことに対して」

「ンなこと言うのはポルナレフくらいだろ」

「まあね、それじゃあ、なんで断ったのかとか……聞かないの?」

 私は横に並ぶ空条をさっきと同じように見上げた。もう十cm、彼の身長が低ければもっと考えていることが分かりやすいのにと思う。
 空条はにやりと口角を上げて、「聞く必要があるか?」と言った。
 その顔は酷く自信に満ちた顔付きで、まるで、まるで。

「――ッ! なんだよそれ! 私はきみのことが好きだから、頷くわけがないって言いたいの!?」

 どうして、こんなにも互いの考えが分かってしまうんだろう。

「さあな」

 屋上から告白された時とは違う、怒りと羞恥の混じった顔の火照り。
 ああ、まったく。私はなんてやっかいな男に惚れてしまったのか。




Q,エリザちゃーーーん!!俺だーーー!!結婚してくれーーー!!とモブに言われたらどんな反応しますか?

A,こんな感じです。とくに面白いリアクションが返せない口説かれなれてない女。
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