proposal ?
あれだけお願いしても駄目だと、ジョースターさんは話も聞いてくれなくなった。
「あの、すみません」
それならば邪道だろうが卑怯だろうが、自分で道を切り開くしかないわけで――。
「はい?」
「飛行機のチケット一枚追加で。座席は他の席から少し離しておいて下さい」
空条の家の前に集まっている集団。私は出来るだけ顔をひきしめて、その中で一番話のわかってくれそうな男性に声をかける。しかし『SW財団』と背に書かれた服の男性は、それを聞いて訝しげに首を傾げた。
「ジョースターさんからの、伝言です」
「失礼だが……君は?」
まあ当然のことだ。こんな小娘に一体なんの関わりがあるんだ、と。お兄さんの言いたいことは分かる。
だからといって引くわけには行かない。でももう面倒だからスタンドで殴ってどうにか――いやいや、駄目だよ私。すぐそうやって力でどうにかしようとするのはお馬鹿さんの考えだ……。気付かれないように深呼吸を一度して、真っ直ぐ前を見る。
「エリザ・バスカヴィル。ホリィさんの娘です」
お兄さんは一度目を見開いて、どう納得したのか少しだけ顔をほころばせた。そうして、なぜか私の背後に視線をやった。
その先には――、
「空条」
「なにアホなことやってんだテメーは……」
呆れたように肩を竦め、彼は私の背を小突いた。痛みはないがその衝撃でぐえと声を漏らすと、空条はうっとおしそうに顔をしかめた。
抗議を口にする前に、「アマガエルみてえだな」とは私を引きずっていく。その途中、
「承太郎ぼっちゃんは、色恋には鈍いようです。頑張ってくださいね」
すれ違ったSW財団のお兄さんは、そう私に耳打ちしていった。本当に、どう納得したんだろう。
とにかく、空港に着くまで私の説得は続いた。
「ジョースターさん、ジョースターさん」
「駄目じゃ」
「ジョースターさん」
「駄目だと言ったら――」
「ジョセフさん」
「だ……」
「押され負けてるじゃあねェ」
見送りにだけならおいで、と言ってくれたジョースターさんの横に座り、流れていく景色に目もくれず私は彼の服を引っ張り続けた。
高速道路は平日だからか、とても空いている。
「いい加減しつこいぜ」
「うるさい空条!じゃ、じゃあアブドゥルさん!なんとか言って下さい」
後ろの席に座る男性に声を掛ける。アブドゥルさんは苦笑を浮かべて私の肩を叩いた。
「……君は、ホリィさんについていてあげたほうがいい」
「私もそう思います」
「花京院まで……ッ」
更に振り向けば、今度は頭を何かに引かれた。
「い゛っ」
「……やれやれだ」
「なんで鎖なんかつけてるんだよ!いたいいたい!」
無駄に長い髪が空条の制服に絡まって、ちょっぴりでも頭を動かすと髪の引きつれるぴりぴりした痛みが走る。この一瞬でどうしてそんなに複雑に絡まれるのか!
「めんどうだ。切っちまうぜ」
「や、やだ……」
無駄でも邪魔でも、私は髪の毛をなかなかに大切にしていた。あまりまめな性格とは言えない私にしては、これにかける手間は通常の女子高生並、もしくはそれ以上だ。
懇願するように空条を見あげれば、このファザコンがと言わんばかりに舌打ちをされる。
「白金の星(スタープラチナ)」
目にも留まらぬ速さでカラマリを直してくれるスタープラチナくん。さすが精密動作性A。私はぱらぱらと拍手をした。
○
「あいつはテメーの母親じゃあねえ」
二回目の言葉。そう言い残して、承太郎たちはカイロに旅立った。
彼の言葉を聞いて花京院は、少しだけ咎めるような目をした。多分、それは冷たいんじゃあないかい?と言いかけてやめたのだろう。
「そんなの……わかってるよ」
ガラス越しの空を見上げて独りごちる。
私の母は、私が幼い頃に風邪をこじらせて死んだ。元来より体の弱い女性だったらしい。あまりに昔のことだから、私に残っている記憶といえば、うすくぼやけた写真に映る彼女の笑顔。ただそれだけだ。それがあんまりにも優しげで、あんまりにも儚いものだったからか。
「わかってるんだよ……」
女性というのはどうしても弱く儚いものだと思ってしまう。
それが間違いだというのも、頭では理解している。先の言葉だって空条なりの優しさだ。
それでも――。
「……」
私がついていったって大した戦力にもならない。それどころか足をひっぱるようなことだってあるだろう。体こんなことで一々ぐずぐず泣くような人間が、人を倒せるわけがないんだ。そんな覚悟だって、きっとできていない。
「わかってる……わかってない……何も……わかってない」
私は彼らと一緒に行きたかった。今、一人になりたくなかった。わかってる。こんなのただの我侭だ。
「空条は、何もわかってない」
私はカウンターに向かって、少しだけ走った。
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