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「承太郎! エリザちゃんも来てくれたわよ!」
「空条。笑ったのは謝るから出てきてよ」

 ホリィさんから少し遅れて、空条のいる刑務所に入る。
 あの喧嘩の後、彼は面白いことに檻の中に閉じ込められてしまったのだ。しかも今や自らの意思でそこにいるらしい。
 鉄格子と空条。面白いくらいに似合っている。
 それをうかつにも伝えてしまった私の額に、空条は格子の隙間からデコピンをかましてきた。くぼんだら十割方こいつのせいなので、もっと厳重なところに閉じ込めておくべきだと思う。

「随分快適そうだけどさ」

 どこから持ってきたのか、漫画やビール。ラジカセまであるところを見ると、私の部屋より過ごしやすそうだ。

「あんたこいつの恋人か!なんでもいいから早く連れて帰ってくれよ!」

 響く、同室のお兄さん達の悲鳴。

「恋人だって。ダーリン早くでておいでよ」
「おめーが消え失せたらな」
「よし、一生そこにいろや」

 「ゴメンなさい失敗しちゃいました」と凶悪犯の方々――知らないけれど空条と同じところに入るなら怖い人だ――に頭を下げると、お前はもういい!!帰れ!さっさと帰れ!!とブーイングを食らう。
 が、

「す、すみませ……ッッ!!」

 急に彼らの顔が青くなったかと思うと、今度は床に頭を削れんばかりに擦りつけだした。
 それはどこからともなく、飲みかけのコーラの瓶が飛んできたからだ。たぶん空条の仕業だろう。あいつはゴリラか。

「ごめんなさい。あいつ、顔に似合わず友達思いで」
「やかましいぞ……」

 唸る空条を無視して、お兄さん達にフォローを入れる。そして振り向くと、青ざめたホリィさんの顔。

「大丈夫ですか?」
「え、ええ……」

 いつも明るいホリィさんの初めて見る陰った表情に、私の狭小な胸は痛んだ。
 華奢な肩を抱くと鼻孔をくすぐる、大人の女性の香り。少し下に見える鮮やかなグリーンの瞳。
 怯える原因を聞いたところ、空条の周りを取り巻く品々は誰が差し入れたものでもなく、しかも、さっき空条は自分に向けて拳銃の引き金を引いたらしい。……飛んでやがる。

「すぐ出てきますよ。明日には空条のおじいさんも来るんでしょう?」
「そうね。心配しすぎかしら」

 だから大丈夫です、と慰めると顔色はまだ芳しくないが、ようやくにこりと笑ってくれた。やはりホリィさんは笑顔が似合う。そこに花が咲いたように、暖かい人。
 私は空条に近付いて、

「理由があるんだろうけど、あんまりホリィさんに心配かけないでね」
「テメーに言われる筋合いはねえ」
「待ってるよ。きみが出てくるの」

 一人じゃパンダが観に行けないんだ、と笑いかける。
 彼女を笑顔にするのも、それを奪うのも彼。
 
「おれは……悪霊の原因がわかるまでここから出ねぇ」

 そう呟いたわりに――ある事情でパンダは観に行く機会はなかったが――空条はあっという間に出てきた。

「あ、JOJOだわ」
「え! JOJO!」
「ほんとだ、JOJO」

 ざわめく階段上の通学路、色めき立つ女の子。195センチメートルと言うのは、こんなに遠くからでも見つけやすい。
 本当は今直ぐにでも駆け寄って、クレープ屋に引きずっていこうと思った。けれど同級生たちが過酷な闘いを始めたのを見て、それは後日に取っておこうと決意する。
 あそこに突っ込む勇気は、残念ながら持ち合わせていない。
 それにしても空条はモテる。確かにどこをどう見ても男前だし、喧嘩が強いというのも高評価。しかも頭もよくてお金持ち。これでモテない方がおかしいのだろう。

「やかましいッうっとおしいぞォ!」

 あの性格も、硬派の一言でプラスポイント。
 そんな彼と仲がいいというのは反感を買うには充分なのだろうけど、 生憎、私には『オンナ』の匂いがしないらしい。

「きゃあJOJOーーーーー!!」

 悲鳴と共に顔を上げれば、空条が降り注いできた。

「え、あ、えぇ!?」

 受け止めようと走りよれば、ものすごい勢いで睨まれた。勿論間にあうはずもなく、空条は茂みの中に落ちた。イケメンっていうのはすごい。緑さえも自分のテリトリーにしてしまうのだから。

「だ、大丈夫ー?」

 ずるずると上から降りてきて、「出来ねぇことはしようとするんじゃあねえ」と怒られる。きみが転げ落ちなきゃそんなことしようとは思わなかったよ。そう言い返そうと思ったが、足から流れている血を見て口をつぐんだ。

「君」

 後ろから聞こえた、耳なじみのない声。

「このハンカチで、応急手当をするといい……」

 振り返れば、スマートな所作でハンカチを差し出す変わったピアスの少年。
 服装からすると学生のようだけど……羽衣?  

「……大丈夫かい?」
 
 周りの子たちもざわつくような綺麗な顔をしている。それでもどうにも、不気味な転校生だ。
 目が、怖い。
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