parody
フローズンシャーロットの少年

 それはさながら、本から抜け出た陶磁器人形(ビスクドール)のようであった。現実のものとは異なる、薄靄がかった、それこそ文字で表現されたそれとしかいいようがない美しさ。さらに言えばそれは機械仕掛(オートマタ)ではない。ぎこちなく関節の球体を軋ませて人の意のままに動く全陶器(オールビスク)の華奢な四肢は月光を受けて冴え渡るように白く、触れれば体温を奪うほど冷たいのだろう。人目から逃げ切れない路地裏で、碧の軍服に身を包む男は我を忘れた目をして少年を貪っていた。そう、男の腕の中で従順にも痴態を演じるのは、ただの娼婦ではなく、ましてや花も恥じらう少女ではなかった。桜の花に似た、刻みこまれたような笑みを杏色(アプリコット)の唇に浮かべる、いまだうら若き少年。肩ほどまでの色素の薄い毛髪はさらヽヽと揺れ、その指通りの良さを容易に想像させた。彼の未発達な体は倒錯的なまでに凹凸がなく、それでいて喉には罪の味さえ知った跡が見えた。
 少年ドォルは、苦いものなど厭うようなあどけなさで、男の顎門を舌でなぞった。
 私は、暫し彼らの『行為』を食い入るように見つめていた。愚かなことに立ち竦んでしまったのだ。しかし、人にあらざるものを抱き溺れた瞳にはこの私の姿は映らないのか、男は衣擦れの音と時おり上がる水音に陶酔しきったまま、こちらを振り向きもしなかった。
 人形はいつから私に気付いていたのだろう。揺すられるたびに月と遠くの街灯をうけてちらヽヽと色を変える義眼は、まるで生きているように思えた。


「――あヽ」



 かすれた声。声帯粘膜が充血し、透明さを失い、粘液の分泌も増加すると共に声帯の急激な発育に対して筋の発達が伴わないがゆえにおこる――つまりは変声期を迎えた少年特有のそれ。今まで一言も発せられなかった彼の声は、彼を抱く男のみならず、私の鼓膜さえも淫らに震わせた。
 その刺激に身じろいだ私に、ちらりと目をやり、少年はまるで待ち侘びていたとでもいうように、

「なぁに?」

 人形はその琥珀色の瞳を柔らかに綻ばせ、あざとい程のたおやかさをもって小首を傾けた。ひそめていた吐息が、口から溢れ出る。
 その時私は、浅ましくもあの妖しげな少年に――欲情していた。
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