はじまりのはなし
とある街に、改造されすぎたせいか、はたまたもとより笑えないのか、ヒトに近づけてヒトに寄り添うために作られたモノであるのに、笑うことのできないパソコンがありました。
「なにがイけねェんだ〜?」
「おといし」
「俺が?」
「が、いけてない、ノです」
「そういう可愛くねェことばっか覚えやがって〜〜〜ッ!」
それでも、まあこのように作り主と額を重ねじゃれ合うこともある、平穏な日を暮らしておりました。
元は拾ったこのパソコンを、このロッカー被れの理学生が、食費の為に改造をしたのが始まりです。起動もできないほどに壊れていたものですから、外装ととある一点、その他は全て彼のカスタマイズによるものでした。
実装されているOSや、外板、マシンとしてのスペックや機械としての身体能力や学習能力は既存のものと同じ、いえ、それ以上に優れていたのですが――ヒトがパソコンに求めるものは、いまやそれだけではなくなっていました。
「あはは」
笑声をあげても、そのパソコンの表情はフラットのままです。
「こうだよ、こう」
見本を見せるように、音石と呼ばれる苦学生は口角をあげてみせます。しかし、それを真似ようとしてみても、パソコンのやわらかな唇は水平を保ったまま。
笑う機械だなんて不愉快だ、と言っていた世論もいつのまにか、限りなくヒトに近く、限りなくヒトに似せたパソコンを好むようになっていました。このパソコンは前の持ち主の趣味か、大変愛らしい姿で作られていました。その有能なシステムといい、何人もの客が彼女を購入しては、
「折角の俺の最高傑作なんだからよ〜!さっさと高値で売れてくれよなァ」
この不幸なパソコンを棄てていきます。
笑えないこと。それだけが、彼女の欠陥でした。
「頑張る、ます」
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