その後からナマエは男物の服を着るようになった。
声を鼻にかけることもなくなったし、媚びるように首を傾げることもなくなった。
それが良い変化なのかどうなのか俺には分からないが、それでもあいつは前よりも楽しそうに笑う。
「今からそっち寄るけど、なんか必要っすか?」
「牛乳となんか甘いもん。あ、ジョルノにプリン買ってきてやってくれ。こんなに文字とにらめっこしたのなんて、留置所から出してもらった時以来だぜ」
「精々慣れることですね。プリン、承りました」
「よろしく。悪ィな、休みだっつーのに」
「ギャングにも有給があるとは、思いませんでした」
それじゃ、と楽しそうな笑い声を最後に電話は切れる。
生意気さは健在だけれど、周りの人間全て敵だと言いたげなトゲトゲしさはすっかりナリを潜めた。今のやりとりも、以前のあいつと俺では到底考えられない。
随分とまあ、小可愛くなっちまって。
「ま、これで仕事もやりやすくなンだろ」
そう呟いた瞬間にデスクから顔をあげれば――扉の隙間からちらりと見える、パニエでたっぷりと膨らませたスカート。
「……あァ? ライブ会場はここじゃあ――」
「独り言多いって、年ですよねェ」
この声、は。
「ミスタ」
「ナマエ〜〜〜〜〜〜ッ!?」
「そうですけど?」
「やめたんじゃあなかったのかよ!」
「仕事の時は、です」
「オイオイ……ケチつけるっつーわけじゃあねえが……」
「みなまで言わないで下さい。……僕、」
ぽっと染まった頬に手を当て、ナマエはやけにしおらしげな態度をとる。
「可愛いって言われるの、癖になっちゃったみたいなんですよね。だからこれからは……トラウマとかそういう薄暗いものは払拭。そして明るく健全な趣味として、女装は続けていきます!」
そして、眩しいくらいの笑顔を俺に向けた。
「…………ウジウジした変態が開き直った変態になっただけじゃねえか!」
「変態の何が悪いんですか! ミスタのオナニーマシーン!」
「鉛玉ぶち込まれてぇのかッ!」
「やってみやがれ豚のケツッ!」
前言撤回。
こいつがどう変化しようと、俺たちの関係は微塵も良好にはならねえようだ。
「よしそこにいろ、動くなよ。その可愛い顔に風穴開けてやる」
「あ、フーゴさん。この間ミスタが――!」
「やめてッ!」