空に王様千羽鶴



それはある日のこと



曾良の一言からこの物語は始まる




「玲兎、受けてくれる?」

「は?」

「だーかーらー」

「玲兎の後ろ、オレに頂戴♪」




ゴツッ



「いったあー」

「なに、恐ろしいこと言ってんだお前はッ」

「えーいいじゃーん。減るもんじゃなしぃー」


焦るな、俺。大丈夫だ、俺。 曾良はまたなにか変な言葉を覚えてきて、興味本意で使ってるだけだ。うん、きっと意味はわかってない…!

「俺のは減るの!」

「えーじゃあなんでいつもオレが受けなのさあ」



   はっ?



「昔ならまだしも最近じゃああんまり背も変わんないしさ、いいと思うんだよ」



「ま、待てっ…。それはよくない…!」



なんだ、俺の育て方が悪かったのか!?それとも



「いいじゃん。オレ玲兎鳴かしてみたいし♪」



学校側の問題かぁぁあぁあ!!!!???





「オレもう高校生なんだしさ。そろそろ受け側に飽きてきたわけよ。んでさ、いつも玲兎がやってること、オレがしたらいいんじゃないかって思って」



どう考えたらその結論に向かうんだッ…!
「飽きてきたならしなければいい。つかなんでそこで俺を掘ろうとするわけ…?」


危険だ、このガキはッ



「玲兎が好きだから♪」



恐ろしいガキだッッ!!




「―って玲兎にいったら昨日から口を聞いてくんないんだ」
「当たり前じゃん」

祝日の午後。オレは親友の新谷 千とカフェに来ていた

千は頼んだ紅茶を啜りながら溜め息をついた

「なんで!?」
「なんでって 曾良。キミは好きだからヤらしてくれって言われたらするの?」
「ん? うん。それが玲兎なら♪」

(夢崎さん可哀想……)



千ががっくりと肩を落としたのを横目にオレは運ばれてきたケーキセットに声をあげた



「あ。そだ」
「ん?」



ショートケーキの頂点に立つ苺を口に運ぶ寸前でオレは手を止めた


「千って中学の頃、玲兎のこと好きだっただろ」

確信はないケド、今のオレにはわかる。千は玲兎に好意を抱いていたはずだ



すっと伸びてきた手を見つめる

その手はオレの手を掴んで自分の方に引き寄せた




「うん。今も好きだよ」



そしてオレの苺は、彼の口内へ――‐




「おかえり、曾良ぁぁあ――‐!!?」

帰ると同時に、一目散に玲兎を押し倒した

勢い余ってか、玲兎は床に鈍い音を響かせて頭を抱えていたケド



「なんだよ、いきな」
「いやなゲームをした!!」
「―は?」

ゲーム??

彼の顔にはそう文字が浮かんで見えた



「そ! やなゲーム!!」
「は、ぁ…?」
(だからって、なんで俺は押し倒されてんだ?)

『ねぇ曾良、ゲームしようか』

『ゲーム?』

『そう。どっちが』





――夢崎さんの後ろを先に取れるか――



「ねぇ玲兎!!」
「なんだよっ…」
「玲兎の後ろ、オレに頂戴よ…」
「な、お前はまたっ」

嫌な顔しないで
お願いだよ じゃないと


『勝った方が夢崎さんと付き合う』


玲兎が オレのじゃ なくなっちゃう


「なに、泣きそうな顔してんだ 泣きたいのはこっちなんだぞ」
「っ…だって」
「曾良」

彼の大きな 優しい手が頬に触れた
それだけでオレは子供みたいに泣き出してしまう

「泣くな」

オレはいつまで経っても 子供だ



「天乃川〜 お前って恋人とかいんの?」
「いるけど?」
「え〜〜!!曾良くん彼女いるのぉ〜!!? ショックぅ〜〜」

(彼女じゃないけど…。  なにがショックなんだろ…?)

学校は まぁまぁ楽しい。
医学系に進む千とは違う学校になってしまったけど 今でも連絡は取り合っている

ま、あの日から全く連絡は取ってないが


ホストをオレの所為で辞めてしまった玲兎は今も尚 あのコンビニで働いている
それプラス 最近ファーストフード店でも働きだした


ホスト時代で稼いで貯めていた貯金をオレの中学3年間に使い果たしてしまった所為で
エスカレーター式のあの学園では到底学費は払えず 高校は近所の公立 月影高校にいくことになった

「彼女とは週何回Hしてんの〜??」
「もぉ〜浜崎くんえっち〜〜!!!」
「え〜女子からしても気になんでしょ!? で、どうなのよ天乃川!!」
期待に溢れた瞳で女子も男子もこっちを見てくる

「…2週間に1回くらい??」

玲兎も忙しいし、恥ずかしがってあんまりシてくれない

オレは、シたいのにな

「はぁぁ!?なんだよそれ!!全然シてねぇじゃん!!」
「そうだよぅ!その彼女よくないよ!? あたしと付き合おうよ〜 毎日シてあげるよ♪」
「愛ちゃん大胆〜♪」
「えへへ〜」

(そんなこと言われても、オレ女の子とのヤり方知んないし)

「いーよ、オレ。別れるつもりねぇし」

喉渇いたな 飲み物でも買いに行こう

「ぉい、どこいくんだよ!?」
「ジュース買いに」
「早く帰ってきてね〜 もっと話そ〜」

オレは集団に背を向けながら教室から出た

「曾良君ってクールだよね」
「格好いいよね」
「ハーフなのかな〜」
女子達の話題の一部になっていることも知らずに

(2週間に1回はさすがに少ないよな…)
自販機への道を進みながら考える
(初めてシたあの日も、あれっきりだったし そのあとオレが誘っても全然シてくれなかったし  オレが中3ぐらいんときにヤり始めたんだよな〜)
もしかして オレって魅力無い? 飽きられた?

つかもう何度もヤってんのに 玲兎のやつ 未だに一回しかしないんだよな。しかも絶対顔真っ赤にするし。。。

(今日はシてくれるかな〜)

日が傾き始めた頃、俺は二つ目のバイトである、ファーストフード店"W"にきていた
レジで接客にいそじんでいると、店長に呼ばれた

「なんですか?」
「彼、今日からここで働くことになったんだ。よろしく頼むよ」

店長の後ろから出てきたのは


「初めまして、新谷です。」
「……っ……!?」
「…?夢崎くん?」
「えっ、あ、よ、よろしく…」
「よろしくおねがいします!夢崎さん。」





「どうしてここにいる」
「バイトです」
「そうじゃなくて、何故ここなんだ」
「ここ、駅から近いじゃないですか。だから」
「うそをつけ。お前の家は金なんか稼がなくても暮らしていけるだろうが」
「酷いなー。 それ、差別にはいりますよ?金持ちは働いちゃいけないって」
「…なにが目的だ」
「"貴方"っていったらどうします?」





今日は確か、玲兎仕事だっていってたよな。
あれ…、コンビニの方だっけ…それとも
「今から駅前のWいくんだけど、みんないかねぇ?」
「いくいくぅー! ほら天乃川くんも!」
「えっ、ちょ」
ああ〜もう! 勝手に手を引くなよな!


「あれ?あれって曾良のところの制服に似てません?」
新谷の言葉に、俺は入口に目を向ける

確かに、曾良が通う高校の制服だった
だけど、曾良がそこにいるはず…っ!

「あの一番後ろの人――曾良ですよね」
「っなんで」
「夢崎さん、笑顔。来ますよ?」



「じゃあ、俺はこれとこれと、これ」
「トロピカルハンバーガーがお1つと、ポテトMが1つコーラのMがお1つでよろしいですか?」
「うん!」

ああ…早く帰りたいな

「900円になります」
「はーい」

いや、べつに帰ってもやることはないけど
少なくともこいつらといるよりはマシだな

「ほい次、天乃川の番」
「え…あ、オレはべつに――」

「お客様?なにになさいますか?」

あれ、この声

レジの向こう側にいる店員は
トビキリの笑顔を向ける千と、気まずそうに瞳をそらす玲兎だった

「なんで……」
二人が、一緒に、働いて……

「天乃川ー?早く頼めよー」


『ねぇ曾良、ゲームしようか
そう。どっちが
夢崎さんの後ろを先に取れるか
勝った方が夢崎さんと付き合う
ね?楽しそうでしょ?』



   ……取ら、…れるっっ



「…あの…」
「スペシャルハンバーガー3つと、ポテトLが4つ!!そんでトロピカルハンバーガー2つと飲み物はコーラL2つ!!!以上で!!!!!!」

バンッとカウンターに手をついて、思いっきり店員二人を睨んだ
「うっ」
玲兎の方は凄く困った顔をしていたけど、千の方は、未だ笑顔を崩していなかった

「あ、天乃川…?」
「天乃川くん?……た、頼みすぎじゃ」
「はァ?なんか文句でもあんの?」
「い、いや」
「なんでもないっ」
「店員さん、早く会計」
「っ、は、はぃ……11点で3620円になります」

オレは財布から四千円取り出すと、気弱な店員に差し出した

「よ、四千円…お預かり致します…」
「…………」
「…380円とレシートになります…」






「ふふっ、曾良ったら、あんなに怒って」
「………」
「夢崎さん?」
「最悪だ…」

(こんなんだから、イジメたくなるんだよ。)


「…た、ただいま…」
「おかえり」

少し、ホッとした。
無視られるかと思っていたから

「曾良、あの」
「玲兎」
「な、なんだ」

曾良がジッと俺の顔を見つめる
「玲兎は誰の? オレのだよねえ?」
「は、は?」
「まさか玲兎は千のモノになっちゃったの?」
「いや、なんの話をして」

曾良の顔からも声からも怒っているのは伺える。だが、質問の意味がわからない

「玲兎はさ、千のことが好きなの? ああ、そっか、好きだからバイト先教えたんだよね?」
「だれも教えてなんか」
「言い訳するんだ。男のくせに」
「お前な」
「なんだよ」

俺はなにをビビってんだ
曾良の妬きもちくらいいつものことじゃないか

「………」
「…………」


重い沈黙。
その沈黙を先に破ったのは‐曾良の方だった
「ごめ……、今の忘れて。 我ながらガキッぽいこといったね」

しゅん…と耳の垂れた猫のように、曾良は小さく呟いた


「…曾良」
「オレね、千と賭けをしたんだ。 玲兎の後ろをとった方が玲兎と付き合うっていうの。 ほんとはね馬鹿馬鹿しくて、オレの玲兎なのになにをいうんだって思った。 だけどね、オレ時々不安になるんだ。玲兎は優しいから、オレのワガママを聞いてくれてるんじゃないかって」

途切れ途切れに鼻をすする音が聞こえた
こいつのか弱い声を聞いていると"なんで俺が勝手に賭けの対象になってやがる"なんて怒れやしなかった

「曾良、それは」
「わかってる。玲兎は優しさだけで付き合ってるんじゃないって。 だけどね、わかってても不安なんだよ 玲兎は大人でオレは子供。 ねえ、こんなオレでも、ずっと好きでいてくれる?」

不安なのは、俺もだ
中学から高校に上がり、少しは視野も広がった
いつかお前が男の俺なんかに飽きて女のところにでもいくんじゃないかって
お前はこの先、まだまだ成長していつかはオッサンになった俺なんかに飽きてどっかにいっちまうんじゃないかって

不安で不安で仕方がないんだよ
だけどさ、こんなことうじうじ考えてても仕方ないから、今は今の時を生きよう

「当たり前だ。 お前こそずっと俺を好きでいてくれるのか?」
大人でも子供でも
歳が10も違っても
俺たちが望んだ道ならば
後悔はきっとないはずだから

「なにいってるの? 玲兎に出逢った時からオレの世界は玲兎だけなんだよ。」



だから、これからもお前と、二人で
この道を歩んでいこう――‐


2009.6/1









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