双子の神秘


 生まれてから死ぬまで、ずっと僕らは一緒だと思っていた

 だけど、以外にも双子の絆は脆いもので

 知らない間に、彼は僕から離れようとしていた。

 僕は酷い

 そんな君の気持ちを知っていながら

 僕は君から離れなかった

 ごめんね。

 だけど、離れたくないんだ

 世界で唯一僕だけの、お兄ちゃんだから。



あの頃は、まだ小さくて、ずっと一緒にいるのが当たり前だった
暗くなるまで二人で遊んで。泥だらけになって母さんに怒られて。  毎日がとても楽しかった。
だけどいつからだろう……? 流星(リュウセイ)が喧嘩に走ったのは――。



「ただい…「聞いているのか!」

母親のおつかいで近所のスーパーから帰ってきた僕の耳に父親の罵声が聞こえた
僕はビクッと肩を揺らしながら声のする方へ瞳を向ける
そこにはリビングで向かい合わせに座る父親と兄の流星の姿
流星の顔や手にはガーゼなど怪我の処置が行われていた

「あら、穂波(ホナミ)お帰りなさい」
お母さんが僕に気付いて声を掛けてきた
お母さんは僕の手から袋を取るとキッチンに戻る
僕はその後をつけた。そして幼い僕は母親のエプロンを二度ほど引っ張った

「なぁに?」
こちらを向く母親の顔はいつもと同じ穏やかな顔だった
「ねぇ。 セイまた喧嘩したの?」
「…ええ。そうみたいなの。 相手の子にひどい怪我を負わせて…」
母親は困ったように溜め息をついた

「―きっと」
「え?」
「きっと、その子が悪かったんだよ。セイは理由もなしに他人を殴ったりしないよ」
「穂波……」
お母さんは何か考えたあと僕と目線を合わせるように膝をついた

「確かに穂波の言っていることは正しいわ。でもね、穂波。 どんな理由が有ろうと人様を傷付けちゃいけないものよ」
「でも……」

僕が何か言い返そうとした時、リビングの方から頬を叩くような音が聞こえた

「聞いているのかと聞いているだろ! 流星!!どうしてお友達を殴ったんだ!」
「………い……」
「なんだと」
「…あんなの、友達なんかじゃない!!!」
「!!」
反論した流星をもう一度殴ろうと父親が手を上げたとき

「父さんやめて!!!」
僕は間に入っていた

「穂波!どきなさい」
「やだ!どうしてセイを殴るの!?」
「流星はお友達に怪我を負わせたんだぞ!」
「その子がセイに酷いことを言ったんじゃないの!? ねぇどうして!?殴ったらダメだって怒ってるくせにどうしてセイを殴るの!?」
「穂波…どきなさい」
父親の声が段々と震えてくるのがわかった
不思議と殴られるのは怖くなかった
流星が殴られないならそれでよかった

「 ! まちなさい流星!!まだ話は終わってない!!」

だけど流星はリビングから出ていってしまった

「セイ……?」
僕は流星がいるであろう部屋に入った
その部屋は僕と流星が使っている寝室で流星は自分のベッドの上に座っていた

「セイ…? どうしたの、電気もつけないで」
月明かりで青白く光る流星は儚くて……とても寂しかった
僕はそっと流星の隣に座る
ふぃっと顔を反らす流星だけど僕には見えた。 流星の頬に涙の跡があったのを

「セイ…痛いの…?…ねえセイ…なにかいってよ」
「………」
「…セイ…、こっち向いてよ…ねぇったら」
「………っだろ」
「え?」
「お前も俺が悪いと思ってんだろ!」

投げ遣りにいった言葉はとても弱々しかった
「やっとこっち向いた」
「!」
僕はそっと両手で流星の頬を挟んだ
涙の跡は乾いていたけど、沢山泣いたのか目が充血していた

「僕はセイが悪いだなんて思ってないよ。 相手の子が悪かったンでしょ?」
「……それが…いっちゃんでも言えるのか」
「え、…いっちゃんなの」
いっちゃんとは、近所の子で三人でよく遊んでいた
いっちゃんは同い年なのにとてもしっかりしていて僕はよく甘えてたっけ

「ホナ…、お前はアイツが好きかもしれない。でも俺は駄目だ。アイツを好きにはなれない」

 その日から僕らは三人で遊ばなくなった


そのまま何年か過ぎて僕たちは中学生になった。
流星の喧嘩も変わらず、いや、寧ろ昔より悪くなっている気がする
たちまち流星は学校で恐れられる存在となった。

そんなある日

「セイ。次移動だよ。一緒にいこう」
「ああ」
同じクラスの僕らはよく行動を共にしていた
クラスの皆に白い目で見られても気には止めなかった
どちらかといえば流星の方が気にしていたかな

「…お前、俺といる所為で変な目で見られてるのわかってんのか」
「わかってるよ。でも僕はどんな友達より流星の方が大事だから」
「…………」
「流星?」

話さない彼に僕は問いかけた
流星は「なんでもない」というと廊下を進んでいく
渡り廊下を歩いていると近くで話し声が聞こえた

『2組の双子いんじゃん。兄貴の方はおっかねぇけど弟の方は馬鹿みたいにお人好しでさあ。適当に頼んだらなんでもやってくれるんだよ!マジ楽』
『アイツって何でもできるからイラつくんだよなあ』

体が震えた
僕は他の生徒からそう思われていたんだ
今まで友達と思っていたのは僕だけだったんだ
自分の情けなさに泣きたくなって逃げたくもなった
だけどそのとき、僕の背中に手が添えられた

流星の手だった
「…先いってろ。」
流星はそう言い残し声のした方へと向かっていった


流星は授業の終わりに来た
顔に掠り傷をつくりながら

驚いたのは次の日
隣のクラスメイト 2人が大怪我をしていたことだった




今日は親の結婚記念日らしく二人は外食にでかけ、家では僕と流星の二人だけだった
ソファーに座りTVをみている流星の横に僕は腰かけた

横を向き流星をみつめる
整った顔
キリッとした眉毛
ふっくらとした唇
力のある瞳


──全てに触れたいと思った

そしてなにより流星の顔にある掠り傷が気になった

誰かが流星に触れた
違う意味だとわかっていても許せなかった
誰かが流星に触れることが許せなかった

「セイ…傷…」

僕はそっと流星の傷に手を延ばした

「っ…触んなよ!」

流星の手に僕の手は弾かれた

「…ごめん…」
「っ…悪い…ちょっとイラついてたから…、…大丈夫か?」
「ぅん…」

俯いた僕をなだめるように流星は僕の方に手を延ばした
僕ははらうことなく流星の手を招いた

「…痛かったか?」
「ううん…大丈夫」

流星が触れた部分が熱を持った

熱い…体が熱い
もっと流星に触れられたい

頭が熱を持ち思考がおかしくなる
流星の熱い目が僕を見つめる
自然に頬が赤くなり、流星を見つめる
ジッと見つめられ息が苦しくなる

「ホナ…」

甘い声が僕の名前を呼んだ
僕はそっと目を瞑る
流星の手が僕の前髪を上げた

額に感じる流星の唇の感触

恥ずかしい…
けど……嬉しい…

額の感覚が消え僕はゆっくり目を開ける
目の前には微笑んでいる流星が
僕は嬉しくて微笑んだ


Fin−






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