四話  



夏が終わり少し肌寒くなってきた
いつものように医院を閉め、のあと共に晩飯の買い物に行く

「のえるー今日はお鍋が食べたいなー」
「んーそうだな。寒くなってきたしな」
「やったね!じゃあさっそくお買い物に行こう!」

上機嫌ののあに腕を引かれ近所のスーパーへと向かった
スーパーに着き、鍋の食料をカゴに入れていると、聞き慣れた声に呼び止められた

「のえる!」
その声に振り向くと、そこには苑と加島(弟)が立っていた
「こんなとこで会うなんて珍しいね!」
「そうだな」
「今日は晩飯なに食べんのー?」
「んー寒ぃから鍋」

“鍋”と言う言葉に苑は嬉しそうに反応し、加島(たしか、庵だっけか?)は楽しそうに口を開いた

「今日うちもお鍋なんです。よかったら一緒に食べませんか?二人で鍋って言っても量があんまりわからなくて」
「うわっそれいいかも!」
庵に誘われ、のあは嬉しそうに顔を輝かせる

「いいのか?」
「はい!是非!」
庵は嬉しそうに笑うと「では食品みてきます」と言い、苑は「飲み物は頼んだ!お酒ね!」と言って庵のあとについていった

今思うと、このとき何がなんでも断るべきだったんだ――



食事も終盤に差し掛かり、いつの間にか苑とのあは酔いつぶれていた
未成年なのに勢いで呑むからだ
苑の方は昔から呑んでいたのだが、久しぶりなのかすぐ酔いが回ったらしい

俺と庵も程よく酔いが回ったようで、庵はさっきからうとうとしている
俺もちょっと休もうと、その場に寝転び真横で眠るのあの髪を撫でた

「む……ん…のえる…ぅ」
寝ぼけてんのか酔ってんのか、のあは開いた目を擦りながら俺に擦り寄ってきた
そして俺はのあを胸に抱きながら眠りについたのだった。



ピンポーン…

何時間経っただろうか
部屋にチャイムが響き、俺と庵は目を覚ます

「はい…、あ、兄さん。」
どうやら庵の兄さんがきたらしい
「今、開けますね」
庵はそういうと受話器を置き、マンション一階にあるホールの自動ドアを開いた

「んぅーイオさん…だあれ……?」
苑が起きて眠そうにいう
「兄さんだよ」
「イオさんのお兄さん…?どっち…?」
「栞兄さんだ、医者の方」

“栞”!!?

「わ、悪い!加島!そろそろ帰るわ!」
栞と聞いて俺は血相を変える
「え?こんな遅くにですか?のあくんも寝てますし、俺の家は泊まっても構いませんが…」
「いや、急用を思い出した!おい!のあ起きろ」
「んぅー……なにぃー…?」

寝惚けたのあを無理矢理起こし、急いで玄関に向かうと、扉が一人でに開いた


「あれ?藤崎…」



  最 悪 だ



「兄さんいらっしゃい」
「庵ーなんでここに藤崎がいるの?」
「えっ、兄さん知り合いだったんですか?」
「まあね。」
「どけ加島、帰る」
玄関を塞いでいる加島(兄)をあまり見ないようにして、靴を履く

「えー帰っちゃうのー?まだいようよーせっかく俺が来たんだしー」


 お前が来たから帰りたいんだよっ!


なんて言えるわけもなく
「そうですよ藤崎さん!ゆっくりしてってください」

加島兄弟に押され結局残ることになってしまった…


美味しそうに鍋を食べる加島を、俺に後ろから抱き付きながら睨み付けるのあ
庵の方は酔った苑に絡まれて大変なようだ

「いやしかし奇遇だね!まさか藤崎がいるとは」
「………」
なにが奇遇だよ、俺は不運過ぎて泣きそうだ

「なにちびちびお酒呑んでるの?もっとグイって呑んじゃいなよ!」
「いや、俺はもう…」
「ほらほらちびちゃんも!」
「……」

のあは加島に敵対心を抱いているのか、一気にコップ一杯のお酒を呑みほした

「…のえるは……わたさない…んだ……から…なっ」

さらに酔いが回りフラフラなのあはそう言い残し、ばたりと倒れ眠った

「でも久しぶりにだね、藤崎。先々月の手術以来か」
「…そうだな」
「藤崎もっと呑みなよ」
「……もう結構呑んだ」
「まだまだ♪」
「加島…勝手に注ぐな」
「ほれほれ♪」

加島に呑まされている内に俺はいつの間にか眠りについてしまった



「…ん」
目が覚めると、部屋は真っ暗でベランダから入ってくる月の光だけが部屋を照らしている

いつの間にか俺らに毛布がかけられていて
そっと他のメンバーをみると、庵と苑はくっついて寝ており、加島もぐっすり眠りについていた


うっ…やばい…呑みすぎた……


突然尿意に襲われた俺は覚束無い足取りでトイレへと向かった
トイレに入りドアを閉めようとすると、誰かの手がその行動を阻止した

「ふーじーさーきぃ」
手で扉を押さえ中に入ってきたのは楽しそうに微笑む加島だった

「ちょ、なに入ってきて」
「しぃーっ、皆起きちゃうよ」
「だったら出ろ!」
「はーい藤崎さん、おしっこ出しましょうねー」
「話を聞け!うわっ」
加島は俺の話なんかそっちのけで、俺の身体を反転させると後ろからズボンに手をかけ中から自身を取り出した

「っ…加島っ」
誰かに触られるなんて久しぶりで、俺は恥ずかしさのあまり加島の腕を強く握る

「ほら、藤崎…出しちゃいな」
熱を含んだ加島の声で、コイツが興奮しているのだとわかった

「…ッ……ぁ」
研修医の頃、あの出来事から俺たちは一線を越え何度も体を重ねた
全てコイツから誘われしたこと。でも俺は次第に抵抗しなくなった
そんなことがあってか、コイツは俺の弱い部分をよく知っている

「…は……ッ」
「……藤崎…声…出しなよ」
「ふざけ…っ」
「いいんだろ?…藤崎の気持ちいい所は全部知ってるよ」
「……ひ……ァ…」
「先…好きだよね」
そういってヤツは先端をグリッと刺激した

「…うぁッ…」
ビクンッと体が震える
俺を支える肩に触れた加島の手に力が入るのがわかった

「……か…しま…やめッ……も、うっ…」
「いいよ……出して」
「……ぁ…ッ!」
耳の裏を舐められ俺は等々達してしまう。ふるふる震えながらイく俺自身をヤツは扱き続けた

「……いっぱいおしっこ出たね…藤崎」
「…はぁ……ぁ…はぁ」
ガクンと身体中の力が抜け後ろにいる加島に全身を預けるように倒れ込む

「……藤崎」
そんな俺を加島は立たせトイレから出る、とリビングの方から庵の声が聞こえた

「兄さん…?藤崎…さん?」
「あぁ、庵起こしちゃった?」
「…大丈夫…です」
庵が眠そうにこちらを見つめてくる
「庵、悪いけど…藤崎のヤツが酔っちゃって大変だから寝室借りるね」
「え…大丈夫ですか?俺も手伝…」
「大丈夫だよ。庵は寝てて」
弟を説得させると、ヤツは俺を連れて寝室へと入っていった


「……ん…」
加島はうつ伏せの状態で俺を床に寝かす
フローリングの冷たさが火照った体には堪らなく気持ちよかった
このまま眠りにつきそうな勢いだ

だが次の加島のセリフで俺は眠れなくなった

「ごめんね…本当はベッドでヤりたい所だけど弟の家だし、処理はあんまり出来ないから…許してね」
「……なに…を」
さっきの一連でベルトが外れているズボンを簡単に脱がし、四つん這いになった俺の下肢をクイッと持ち上げる
お尻を加島に差し出すような形に俺は顔を真っ赤に染める

ま、まさか…!

「加島…っ、やめ」
「やめないよ…ずっと、欲しかったんだもん」
「…ひっ」
そういって加島は俺の中に指を一本押し込んだ
自分の体の奥で指が動く…その感覚は久しぶりで、昔のことを思い出させた

「…加島……め…ろって」
「やめないって。…ねえ、俺がどんな気分だったかわかる?」
「……ひ…ぅ……」
「好きだった子に、突然目の前から消えられた俺の気持ち」
「ぁ…ッ……く」
「辛くて…辛くて仕方がなかったよ…?…ずっと…藤崎のこと…想ってた」


酒の酔いと、加島に呼び起こされる熱に浮かされ意識が朦朧としてきた



「…藤崎…もう三本も入っちゃったよ…?」
「…ひぁ……も…、許し…」
「許さないよ。俺の前から消えた藤崎が悪い」
「か…しませんせぇ…ッ……あッ……ん」
「……藤崎…今俺のこと…!」

自分でもなにを言っているのかわからない
無意識に放たれる言葉
頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。与えられる快感と冷めぬ熱がまるで脳を溶かしてしまったかのように

そして、加島は俺の中から指を抜いた

「……藤崎…いくよ…」
「!…だめッ、やめ…!」
「やめない」
ぐぐぐっ…と俺の中に熱い何かが入り込んでくる

 熱い…大きい…


「う…ッ……かしませんせ……酷…」
「酷いのはどっちだよ。泣いても許しません」
俺はただ子供のようにがむしゃらに泣いていた


 もう、この人とは体を重ねたくなかったのに


もう、この人には会いたくなかったのに



「…動くよ」
「だ、だめ…あ…」
「クスッ…さっきから否定ばっかりだね。こっちは悦んでいるのに」
腰を揺らしながらヤツは俺自身に触れる
そこはもう、加島の手をすぐ滑らせてしまう程ぐちゃぐちゃだった

「あ…一緒に…ダメ…」
「…気持ちいいの?藤崎…」
耳にかかる息が熱い……どうにかなりそう

「……藤崎…もう俺限界」
「えっ」
さっきまで慣らすように動いていた加島自身が、今度は欲望のまま動き始めた

「ひぁ、あ…あっ、あ」
「藤崎ッ…声押さえて」
「むッ…りぃ…っ…ああ…あっ激し…」
声を押さえることが出来ない俺を、ヤツは仰向けにさせた

「あぁっ…!」
繋がったまま体を動かしたわけだから、変なところが刺激され声が上がる

「藤崎は…仰向けが一番感じるんだよね」
膝裏に手を添えて、やつは俺の体を折り畳むかのように深く挿入してきた

「やめ…深ッ…んんっ…奥」
「奥に当たって気持ちいい?藤崎…」
「…奥…嫌だ…あぁ…あっ」
「いいんでしょ?藤崎」
「ああっ、やだっ、激しっ…んぅ」
激しくなる動きに声をあげるとヤツは唇を重ねてきた

「ん…んぅ、んっ」
朦朧とした意識の中で絡みつく熱い加島の舌に俺は無意識に舌を絡めていた

「っ…はぁ…」
「やぁ…ッ」
離された唇が寂しくて俺は加島の顔を引き寄せる

「んっんっ…ンッ」
加島からの激しい突き上げは止まらない


 ……気持ちいい…ッ…


「はっ……そろそろ…やばっ」
「あ…んっ、せんせ…ぇっ」
「…はは……先生なんて…呼ばれると、なんだかエロいなあ…」
「…俺、も…だめっ」
「……ッ…のえる…っ!」
「ぁああっ…!!」
やつは俺の名を呼びながら果てた


そこで俺の意識は途切れたのだ――




「…ッ…」
頭が痛くて目が覚めると、俺は加島庵のベッドの中にいた
二日酔い…か?頭が痛い…。なんだ?喉も痛い…。というか身体中が痛い…
てか、俺昨日いつのまに寝たんだ?…なんでベッドに…


『やめないよ…ずっと、欲しかったんだもん』

『…気持ちいいの?藤崎…』

『藤崎は…仰向けが一番感じるんだよね』


「…!」
昨夜の加島の声が脳内に響き、俺は自分が昨晩なにをしていたのかはっきりと思い出した。
そうだ!俺は昨日加島と…!


「のえる起きたの?」
ドアの開く音と同時にのあが部屋に入ってくる
「…のあ」
アイツでないことに少し安心した

「もう昼過ぎだよ。ってか大丈夫?喉枯れてるけど」
「…昼…。アイツはどうした」
「あのウザい医者のこと?朝方帰って行ったらしいよ」
「…そう…か」
身体が綺麗にされている。ヤツが出したものも全てかきだされている

「…のえる…アイツのこと…気になるの?」
「はっ!? いや、別に…」
「……そ。ならよかった!」


気にならないと言えば嘘になる
加島は何故あんなに俺に執着するのだろう

『…ねえ、俺がどんな気分だったかわかる?』

『好きだった子に、突然目の前から消えられた俺の気持ち』


好き…?加島が…俺のことを…?

違う。アイツは勘違いしてるんだ
一時体を重ねていたから、好きだと勘違いしてるんだ



俺は男に興味はない。好かれても困る



だから本当は…


「ん?なに?のえる」


「なんでもない」



のあのことも――








Return






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -