三話  



先日、久しぶりに弟に会いに行ったら手首を怪我していた。
適切な処置を行われていたから何処の病院にいったのと問い詰めたら、同居人のよく行く古い病院だという
どんなやつが処置したのか気になって場所を聞き出し、今日その場所に来たんだけど…

目の前にはボロボロの二階建てが…

扉が閉まっている。まだ開いてないらしい。
取り敢えず俺は客じゃないし、一々開くのを待ってられない
そう思い、俺は入口脇のインターホンに手をかけた

ピンポーンと別に珍しくもない音が流れる
暫くして、微かに足音が聞こえてきた
その足音が近づいてくると同時に声も聞こえた

『まだ開いてないんですけど』

ガチャガチャと鍵を外す音

…ん?…あれ…?今の…声…

「…急病ですか?」
扉が開くと同時に、医者は声かけた

「あ」
驚いた俺の声に医者は俯けた顔を上げ、俺の顔を見た
「…!か、加島…!?」
「やっぱり藤崎だ!」
俺が近づくと藤崎は少し後退りをした
「な、なんでここに」
「弟がさー怪我してて、処置されてたからどんなやつが処置したのか気になって。 まさか藤崎だったとはね」
「………」

藤崎は、俺が働く加島総合病院に最後の研修医に来ていた。(研修医はいくつかの病院に研修に行かなきゃいけない。)

もう何年も前の話だけど。
そしてそのとき藤崎の担当指導医をしていたのがこの俺、加島 栞。

いやー、あの頃は色々とあったねえ。
藤崎ってば研修終わって、医者になった途端病院辞めるんだもん。
結構ショックだったんだよなぁ

「…もう…顔みただろ…。帰れよ」
「えーなんか冷たくない?昔みたいに呼んでよ! “加島せんせ”って!」
「…殴るぞ」
藤崎のやつ、昔より口が悪くなってる…。
いや、これが彼の素顔なのかも。
ああ、研修医だった頃が懐かしい…

「ところで、なんでこんな所で診療所やってんの?」
「………べつに」
「ふーん。 ね、病院に帰ってきなよ?俺今結構地位高いし、藤崎なら俺が言ってすぐに働かせてあげるよ?」
「…いらねー」
藤崎は俺をあしらうかのように、手で払った
「俺はここで満足してるから。もうあそこには帰らない」
「つまんないなー。きっと給料もいいよー?」
「…いらねえっつってんだろ」
「………」
昔の藤崎はあんなに可愛かったのに……どうしてこんな…子に……うっ

「嘘泣きすんなうぜぇ」
「…バレた?」
でもなぁ、藤崎。昔よりますます綺麗になってんの。いや、綺麗って言葉はおかしいか…。大人っぽくなったというか可愛くなったとかいうか


……何度も恋をしたけど……藤崎の事、忘れられなかったなぁ…


「ねえ、藤崎」
「な、なんだよ」
一歩近付いたら一歩下がる
これを繰り返し、徐々に藤崎を壁際へ押し込んでく

「……藤崎今恋人いんの?」
「は?いねえけど…?」
「ふーん」
壁に背が当たったのか、藤崎が一度後ろを向く
その隙を狙って俺は藤崎の両手を壁に縫い付けた

まるで捕らえられた兎のように、藤崎は不安な表情を見せる

「……久しぶりに…」
藤崎の耳元に唇を寄せる
「……お前を抱きたいんだけど」
「……ぁ…、……っ!」
耳元でそう呟いた後、かぷりと耳朶を甘噛みした
藤崎はビクンと体を震わせたあと恥ずかしかったのか、思いっきり睨んできた

「…気持ち悪いことしてんじゃねえよ」
「んー?耳朶かじっただけだよ」
「それが気持ち悪いんだよ!」
「ふーん、じゃあそれ以上シたら、どうなるの?」
「!?…やめっ」

ガチャ

「「!?」」
藤崎に口づけようとした時、入口の扉が一人でに開いた

「のえるーおはよー今日も来た………よ…」
右手を上げながら大声で現れた元気な少年は、廊下の壁で顔を近付け合ってる大人二人を見て固まった

「の…のあ」
藤崎が彼の名(だと思う)を呼んだ途端、彼はまるで雷に打たれたかのようにビクンと身体を震わした後、すごい形相で俺を睨みつけながらズンズンと近付いてきた

「のあ、ッ…これは」
「―アンタ」
藤崎が弁解しようとしてるにも関わらず、彼は藤崎の手を押さえつける俺の腕を握って尚且つ睨み付けながら口を開いた

「のえるの何?気安く触んないでくれる?」
挑戦的な声色に、俺は「ふっ…」と笑う
「なにがおかしいンだよっ」
「…お前こそ何?」
「…っ」
見下した目で見たのがいけなかったのか、彼は相当苛ついたようで感情を露にした

「こっちが聞いてんだよ!!」
「のあッ!落ち着け!」
藤崎が間に入っても、彼は藤崎の言葉に耳を傾けないでいる
「確か藤崎弟いないって言ってたよねえ。この子ダレぇ?」
子供扱いされたのが嫌なようで、俺の腕を掴んでいる手に力が隠った

「こいつは、俺の親戚で…」
「へぇ、親戚」
「っ…てめぇ…」
鼻で笑ったら彼の表情は段々変わっていく
本当にガキだな。

「のえるのなんなんだよ!つか、離せよ!!」
「のあ落ち着けって! 加島もいい加減離せッ!」
二人揃って俺の手を退かそうとするもんだから、ついカッとなって

「!」
藤崎の腕を引いて胸の中に収めた
「ごめんね、おちびちゃん。俺藤崎の元上司なの」
「! の、のえるから離れろー!」

「…加島…お前…わざとやってるだろ…」

正解だよ、藤崎☆


診察室へと、場所を変えた俺たち
「のあ…暑い離れろ」
「やだ」
からかい過ぎた所為かおちびちゃんに思い切り警戒されている。(別に構わないけどね。)
でも、いくら警戒してるからって後ろから藤崎に抱き付いてるのは許せないな

「加島、顔恐いぞ」
「え?なにが?」
(…その黒い笑みだっての…)
「それよりお前病院は?」
こんなとこいて大丈夫なのかよ、と藤崎は付け足し言った
「ああ、だいじょーぶだいじょーぶ!今日はオフなんだ!それにうちには有能な医者が沢山いるから俺がいなくても」

ピピピッ…ピピピッ

「おい、携帯鳴ってるぞ」
笑顔で"大丈夫"と伝えてる途中に、とてもいいタイミングで携帯が鳴った
藤崎は嫌味そうに笑いながらこっちを見てくる

…ほんと、いい性格してるよ…

ディスプレイには"病院"の文字

「……」
「でろよ」
「…藤崎の意地悪…」
「はぁ?」

ピッ
「もしもし」
通話ボタンを押した途端聞こえてくるのは、焦るナースの声
『加島先生!大変なんです!近くで玉突き事故がありまして沢山の患者さんが運び込まれてるんですっ』
「…今いるメンバーでは対処できないの?」
『少々人出不足なんです!オペも必要とされていてっ』
「…わかった…すぐ戻る。それまで耐えて」
『すみません!わかりました!』

はぁ……せっかくのオフだったのに…

「なに、急患?」
「ん…事故があって沢山運び込まれてきたらしい」
「ふーん。じゃ、早く帰れよ」
酷い…。
「帰るよ…。 あ!そうだ!藤崎も手伝いにきてよ!」
「はぁ!?」
「人出不足なんだ!頼むよ!」お願い!と両手を叩いて合わせて懇願する

「…加島…俺は…」
「だめだめ!絶対だめ!」
藤崎が何かを言う前に後ろのおちびちゃんがでしゃばってきた
「君に聞いてないんだけど」
「無理だよっ!のえるだってここの仕事あるし、あんたんとこ構ってる暇なんてないよ!」
あー…だめだ、この子とは一生気が合いそうにない。

「藤崎…そこをなんとかっ」
「………晩飯」
「は?」
「焼肉奢ってくれるならいいぞ」
「ちょ…のえる!」
「い、いいよ!」
それで藤崎といれるならねっ!

「もちろんコイツの分もな」
そう言って親指を立てて後ろのおちびちゃんを指差した

ふ、二人分か…っ、いや金銭的には大丈夫だけど、個人的におちびちゃんは奢りたくないなあ

「のえるっ!なにいってんだよそんなことしたら…!」
「久々に焼肉食いたいし、いいだろ別に。患者なんてうち滅多にこないし」
「…うっ…」
「いいよ、藤崎。さ、すぐいくから準備して」
この際構わない。藤崎とまた仕事が出来るなら
「え?焼肉いくの?」
「ばか、病院だよ。行くぞのあ」
「え、あ、うん」

そして俺たち一行は病院に向かうのだった




「加島先生!お待ちしてました…って誰です?その方は…」
病院の入口にいたナースが俺の姿をみて、駆け寄ってくる
「俺の友人だよ。一応医師免許はあるから今回手伝いに来てもらったんだ。 それより、今どんな状況?」
「は、はい!今は、間宮先生と門谷先生が処置に回って下さっていて、漸く3分1処置を終えました!」
間宮、門谷は中々の腕を持つ医師だ。まあ、俺ほどじゃないけどね
「まだ3分1か…。どれくらいの人がきたの?」
話ながら急ぎ足で廊下を進む。
真剣な面持ちで藤崎も話を聞いている。
おちびちゃんは大きい病院が苦手なのか居心地の悪そうな顔をしていた。(全く、ついてこなくてもいいのに)

「はい、30名ほど運び込まれてきまして…――」




「のあ、お前そこら辺で待ってろ。」
入り口付近にある待合室――まあ、廊下にソファーが数個あるだけだけど

「えっ…でも」
「お前は医師免許なんて持ってないから、手伝えることなんてないんだよ。」
「……っ」
言い方が酷かったのか、のあが辛そうな顔をする。
慌てて俺はのあの髪を撫でた
「悪い、言い方がキツかったな。」
「ううん…、事実だし…」
「……終わったら焼肉だ。たくさん食おうな」
「…うん!」
笑みを浮かべると、のあは嬉しそうに微笑んだ。やっぱコイツは笑ってる方がいいな。

「じゃあ行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
俺は加島と共に、患者の元へと向かった



(…ん…ちょっと待てよ…? 晩飯が焼肉って…ことは……。 え…?昼ごはんは…?え?なし?え…え?の、のえる〜……っ俺それまでなにしろってーのぉ!)

いくら思った所で口に出さなければのえるには届かない。
てか、よく考えろ自分! 俺の昼ごはんより人の命の方が大事だろ!
…でも、のえるも食べてないんだよな…。大丈夫かな…

つか…病院の空気って…苦手なんだよな…。
この、なんつーか重苦しい感じ?(のえるの病院はボロいけどなんか落ち着くんだよな。通い慣れてるってのもあるだろうけど。)

一先ず俺はソファーに深く腰かけた

(…!? な、なんだこのソファー!やわらけぇ!!)

ソファーの柔らかさに驚いていたが、隣に座っている少女が泣いているのに気付いた
「ふ……ぅ…っ…うぅっ…ひっ…ぐ…う」

うわ…大分グズってるよ……てかお母さんどこだよ…

5〜6歳と思われる少女は、所々服が汚れていた

あれ…もしかして…、今回の事故に巻き込まれた…子?

「えっと、お嬢ちゃん…?」
「ふ、ふぇ…」
俺が呼び掛けると、泣きすぎてぐちゃぐちゃになった顔で少女はこっちを見た
「お父さんか、お母さんは?」
「う、う…」
「えっ、ちょ…」
「おかあさんは、ゆーちゃんまもってえ、けがしちゃったああああ!うああああんっ!!」
ちょ…うわっ…さっきより泣いちゃったよっ、えと、…整理しろ、俺
ゆーちゃん(多分この子の名前だろう)の母親はゆーちゃんを庇って怪我を負って、今手術中で……

結構大きな事故だったんだな…30人も運ばれるなんて…

俺は一人で泣きじゃくる少女の頭を優しく撫でた
すると少女は泣き止み不思議そうにこちらを見てきた
「…偉いね、一人で待ってるんだ」
「……だって…おかあ、さんは…ゆーちゃ…のせ、でっ」
嗚咽の所為で上手く喋れないらしい

「そんなことないよ。ゆーちゃんの所為じゃないよ。確かにお母さんは怪我をしちゃったかもしれないけど、可愛いゆーちゃんを守って怪我をしたんだから、多分悔いはないと思うよ」
「…くい…?」
 しまった!こんな小さな子に難しい言葉を…ってか、悔いって死んじゃったみたいじゃないか俺!!

「と、取り敢えず、大丈夫だよゆーちゃん。」
「…なんで…?」
「だってここには、俺が信用できる最高のお医者さまがいるんだよ」
「…ほん、と?」
「うん。 俺が大好きな、素敵で優しいお医者さまがねっ!だからきっとお母さんを助けてくれるよ!」
「…うん!」
「だからそれまでお兄ちゃんと一緒に待ってようね」
「うん!」


ーー…


「終わ…ったぁあ…」
「…ひー…疲れたぁ」
俺と藤崎は最後の患者を見送った後、その場に座り込んだ
藤崎も久しぶりの手術だと言っていた割には手際が良く、つい研修時代を思い出してしまった

「藤崎、ありがとね」
「別に。 久々にアンタと仕事出来て、少し楽しかったし…」
「…っ!?」
「いや…人が危険にさらされてるっていうのに、楽しかったはないか」
「藤崎!!」
「な、なんだよっ、大声だして…」
珍しくデレた藤崎に顔を近付ける

「っ…てめ、なにしてやがるっ」

危機を察したのか藤崎が俺の肩を力一杯押してくる

「藤崎に触りたい、キスしたい、エッチしたい」
「っ!? 気持ち悪いぞお前!」
「好き、…藤崎」
「ちょ…っ」

肩を押さえる腕を掴み握り締め、顔を近付け藤崎に軽いキスを落とす

「てめ…」
「藤崎……」

好きだよ、藤崎

「っ…」
そう耳元で囁いて、今度は深く口付けた
もちろん、舌も入れて

「ん…んぅ」
最初は抵抗を見せた藤崎も次第に諦めたのか、素直にキスに応じた

「ん……ちゅ…ん…っ」
久しぶりの藤崎とのキス。最高に気持ちいい
藤崎自身は舌を絡めてこないけど、俺は藤崎の舌に絡みまくった

「ん…っ…はぁ…はぁ」
唇を離すと、藤崎は真っ赤になりながら肩で息をしていた
エロい表情してる

たまらずまた口付けた
「ん…っ…こらっ…も…やめ…ンッ」
「…ん……ふじ…さ……」
「は…ぁ……ん…んっ」
藤崎も俺も、昔からキスが好きで。特に俺は藤崎相手だと止まらなくなる

「…ん…やめ……しま…」
「……ちゅ……」
「ん……か…しま…やめ…ろ」
「…ん……なんで…まだしたいよ」
「…はぁ……っ…なげぇんだよ…バカ」
今度は顔中にキスを降らしてく

「…久しぶりなんだよ……?もっとシたい…」
「っ…やめろっ……俺は」
「……あれ…」
「っ…!!」

藤崎の股間に触れる

「……んだよ…」
「……勃ってない」
不満そうに告げると「当たり前だ」と返ってきた

「なんでぇ…気持ちよかったでしょ?」
「…ま、気持ちよかったけど、別にキスくらいじゃ勃たないし…」
なに?さっきからコイツのデレ具合
理性なんて持たないんだけど
(昔はキスで勃ってたくせに!)

「俺は…臨戦体制に入ってるよ…?」
藤崎の手を取って、熱く膨れ上がる俺の股間に這わした

「!」
「…藤崎……シたい」
「………」
藤崎の手を勝手に動かし、ズボン越しに自身を扱く
藤崎の目、潤んでる…動揺してるのかな?…可愛い…もう一回キスしちゃおっかな…

「…ね、ふじさ…ぎっっ!!!」
ガツンっ!と脳天に藤崎の拳が落ちる

「気持ち悪いことすんな、変態」
頭を押さえる俺なんか気にしないで立ち上がり、すたすたと進む藤崎

「い、痛いよ藤崎ぃー…」
「知るか。さっさと飯だ、ばか」
「う、うわあーん…藤崎のばかぁ!」



「……危なかった…」
そう藤崎が小さく呟いたが子供のように泣きじゃくる俺には届かなかった


そのあとは約束通り、藤崎とおちびちゃんに焼肉を奢り、ことごとくいい雰囲気を邪魔され、躱(かわ)され、帰路に着いたのだった…。

あーあ……藤崎とシたい…。

久しぶりの想い人に出逢い、欲求不満になりそうな俺、加島栞でしたー。






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