二話  




「……まぶしい……」
何の変哲も無い普通の扉を開いた俺、藤崎のえるはそう呟く
徹夜明けの俺には白い廊下が眩しすぎたようだ
おまけに窓からの日差しが反射して余計に目が痛い

「あ、おはようございます」
白い服を纏った女性が微笑を浮かべながら挨拶をしてきた
「今日も徹夜ですか?」
「えぇ……まぁ…。」
予想通りと言った表情で彼女は口元に手を当て笑う
俺は照れ臭混じりに後ろ髪をくしゃくしゃと掻き毟った

加島総合病院に研修医として来て早1ヶ月
まだまだ不慣れなことが多いため徹夜の日々が続いている
担当指導医はなんとこの病院の跡取り 加島 栞
女みたいな名前だがれっきとした男だ

親の七光りでこの病院にいるのかと思うが
加島は七光り以前に実力がある
若いのに頭も良く腕もたつ、オマケに顔も良い
ナースの間では人気の医者だ
いや、ナース以外にも…

でも性格がなぁ………

「藤崎ー」
「はい?」
「お腹減った。なんか買ってきて」
この通り我儘で子供。俺をパシリに使う。
「いつものあんぱんと、チョコレートとフルーツ牛乳ね」
「…わかりました」
  はぁ…。
午前中、そう加島がいる時間俺はパシリとなる
だから俺はいつも加島が帰った後に、部屋に篭り勉強する
今日で3日目だな…。そろそろ家に帰りたい…。

ああ、頭痛が酷い。頭が割れそうだ…。

「―危ない!!」
加島の声がしたと思ったら、俺の世界は斜めっていた
「え……?」
次の瞬間、体に軽い衝撃と柔らかい感触

「…ったく、危ないなぁ」
「…あ…」
視線の先には加島の顔があった
俺は加島に抱きかかえられていたのだ
「す、すみませんっ…」
寝不足が祟ったのだろう。眩暈を起こすなんて…。
慌てて加島の腕の中から出ようとするがグイッと腕を引かれ、また加島の腕の中

「藤崎」
「は、はい…!」
加島の真剣な顔が近づく

「お前ちゃんと飯食ってる?軽いし細すぎ…」
俺の腰に加島の指が食い込む
「あ…いえ、最近は…」
カップ麺しか食べてないな…

「ダメだろ!食べなきゃ。 それにクマ。酷いよ、寝なきゃ」
「い、いえ大丈夫です」
バレてしまった。加島には黙っていたのに…。さすがにこのクマではバレるか
「大丈夫じゃないだろ!? 倒れたんだから」
「大丈夫ですって…、ちょっと躓いただけですし…」
「あのね、藤崎」
「はい…?」
「俺を誰だと思ってんの?100年に一度の天才児だよ!?」

自分で言うなよ……確かにそうだけどさ…。

「その俺を騙せると思ってるの? 顔色も悪いしフラフラじゃん。」
「………」
「今日はそこのソファーで寝てな。」
「いえ!自分は…!」
「藤崎!」
加島の声が部屋に響いた
「寝とけって。 心配しなくても忙しくなったら起こすから、それまで寝て、少しでも体調良くしといて、ね?」
「……はい……」
はぁ……担当医であるこの人に言われるとは…
しょうがない…今日は体調管理が出来ていなかった俺が悪い。素直に甘えよう
「すみません……加島先生…」
「わかってくれたなら、いいよ。でももうこんな無理しないで」
「はい……」


その後、俺は加島と共に帰宅することを義務付けられた
「じゃないとまた、徹夜するから」だそうだ。
加島と共に帰る事が多くなり、時折酒を一緒に呑んだ
そこでよく世間話をする
加島には3人の弟がいるらしい
母はすでに他界しており父親と5人暮らしだそうだ
近々一人暮らしするらしい
弟たちを溺愛している、所謂ブラコンだ。

「藤崎は弟とかいないの?」
「え…、あぁ…」
「??」
“弟” みたいなのはいる、かな
最近全然会っていないけど
そもそも会う理由も無いか…。
姉さんの息子だし。

「いませんよ」
「へぇ。意外」
「なんでです?」
「藤崎面倒見いいから、いると思ったのに。」
どんな理由だ。 それに俺は面倒見なんて良くない

俺はいつでも、自分のことしか考えない。相手の事なんて考えやしない
そういう性格なんだ。我ながら可哀相な性格をしている
「…明日、久しぶりの休みなんだから、もっと呑みなよ」
「…先生は仕事ですよね」
「まぁーねぇ」
その日は加島に勧められるまま潰れるまで呑んだ
お陰で次の日は二日酔い。見事に一つも家事ができなかった。


「ふーじさきせんせ!」
背後から投げかけられた幼声に気付き振り返ると、入院している子供がいた
目線が合うようにしゃがみ込む
「ん?どうしたのかな?」
「はい!これあげるね!」
渡されたのはピンクの紙に包まれた飴玉
「?いいの?」
「うん、あげる!絶対食べてね!」
ニッコリと微笑むと少年は自分の病室へと走っていった
「おーい、廊下は走っちゃいけないぞー」
聞こえてないだろうけど…。

取りあえず、もらった飴舐めよう。

「ん…」
イチゴ味だ。中々美味い。
俺は何だか得した気分で部屋へと戻っていった




ガチャ
「あーもうだるかったぁ」
会議から帰ってきた加島がダルそうに扉を開いた
自分に背を向け机に向かう藤崎へと近づく
「藤崎ぃ〜、聞いてよ〜」
椅子ごと抱きしめるように、藤崎に抱きついたときだった

「…あっ…」
触れた瞬間藤崎の体が大袈裟に揺れ、小さな吐息が漏れた
「…藤崎…?」
不思議に思い声をかけると同じようにビクンと揺れ、声が漏れる
「え…どうした…??」
「ゃ…なんでも、…ない、です…っ」
ふるふると震えながら返事をするが息が荒い
心なしか、体も熱い
「…熱でもあんの?」
一度藤崎から離れ、椅子を回す
俯いた藤崎の額に手を当てるとまた、ビクリと揺れた
「…ちょっと熱いね」
熱でも出たんだろうか?
顔を覗く
「…はぁ……はぁ…」
「!」

藤崎の表情は今まで一度も見たことの無いものだった。
紅潮した頬に、潤んだ瞳、小さな口から漏れる荒い息、震えた体
その表情に俺自身は動揺する

「ふ、藤崎どうしたの!?」
どうみても、誘っているような表情
「ぁ…わかり、ません……はぁ…体、熱……」
「藤崎……」
可愛い、どうしよう。男なのに。可愛くて、仕方ない…。
「はぁ……せんせ…ぇ」
「っ」
どうしよう、理性が持たない。どうしようどうしようどうしよう!

「!」
藤崎が俺に体を預けるように倒れ込んできた
「…ハァ…せ、んせぇ……俺…辛い……」
バクバクバクと大きな音を立てて俺の胸はその活動を主張する

もうだめだ。可愛すぎる…っ

「…藤崎、今、助けてあげるね…」
「…え……?」
俺はそっと、藤崎にキスをした


「んっ…ぁっ、…せ、…せぇ、なにっ…して…!」
藤崎は震えた体で抵抗を見せた
「辛いんでしょ?…楽にしてあげる」
「やぁ…っ」
服の中に手を入れると途端に声を上げる

この甘ったるい声…結構来るね…っ

俺は大好物のお菓子を前にした子供のようにペロッと口の端を舐めた
胸の飾りに触れながら俺は再度藤崎に唇を合わす
「んっ、や…だ…っ、せん…せっ」
「おとなしくして」
「あン…っ、やめ」

もう自分じゃどうすることも出来ないくせに。

「藤崎…勃ってるよ…?」
「ひぁ…っ」
ズボンの上から固まりに触れると藤崎は甘い声を上げた
ベルトを外し、藤崎自身を取り出す
そこはもう、かなりの蜜を垂らしいやらしく光っていた
「いやらしいね…すごく濡れてるよ」
「んっ…言う、なっ」

普段なら絶対にしないけど

「あっ!やめ!」

俺は藤崎自身に舌を這わした


苦い…。それに、熱い
「や、やぁっ、ん」
「ん……っ」
「やめ、ろっ…離、せっ…」
「ん、んぅ」
「んぁぁ、だめ、食べちゃっ…!」
可愛いこと言うね。時々口悪いけど。

「い、イッちゃ…」
早いな、それほどギリギリ…ということか。
俺は構わず、藤崎自身を深く銜えた
「だめっ…!離…せ!あ、あ、あぁぁ」
ビクンと震え喉の奥に飛沫がかかる
「うっ…!」
初めてで飲み込むことなんて出来なくて噎せかえる
「はぁ…はぁ…」
「ゴホっ……はぁ」
深く深呼吸を繰り返し、息を整える。
漸く落ち着いて藤崎を見ると淫らに脚を開いて息を荒く乱していた

なんてエロイ格好。

「ぁ………っと」
「ん…?」

「…もっと…」




「挿れるよ…」
「はぁ…はぁ」
前戯が済んだ頃には藤崎はとろとろに溶けていた
藤崎の蕾に俺自身を埋め込む
「う…ぁっ!!」
痛いのか、藤崎は俺の腕に爪を立てる
「っ…! ふじ、さき…!」
「痛っ、あぅ、うっ」
痛みまで快楽になってきたのだろうか…?
徐々に藤崎は恍惚の表情になる

「んっ、あ、あぁ」
腰が揺れるたび、藤崎の声が上がる
「んぅ…!きも…気持ちいっ…」
「ぁ…ッ それっ、ダメだって…!」
「あぅ!おっ…きい…っ」

ほんと可愛すぎる…中毒になりそう

「はぁ…、のえる…」
「あっ!やあぁ」
「イっていいよ、のえる」
「ひぁ、あっイッちゃ…!」
ビクビクと震え藤崎はイッた
間もなくして俺もイッた

どうしよう、俺、藤崎のコト…好きかも知れない…
この顔、声、俺以外に聞かせたくないな…




「…ん」
白い天井が視界に入る
「あ、起きた…?」
いつもより少し声のトーンが下がった加島が横から話しかけてきた

あれ…俺いつの間に…寝て
「…藤崎」
「…はい?」
「さっきのこと…覚えてる?」

さっき?……さっき……

「俺、お前を抱いたんだけど」
「!」
そうだ!…俺はさっき、この人と…!

「……」
なんでこんなことに…!
よく思い出せ、よく思い出すんだ!

入院患者の男の子に飴を貰って、それを舐めて部屋に戻って書類を片付けようとしたら突然目眩がして、したと思ったら次に身体が熱くなって…触れられた部分が電気みたいに身体中に走って、それで――

「藤崎、あのさ…。あぁなる前になんか食べたりした?」
「あめ…」
「…え?」
「飴を…貰って舐めたんです…。そしたら急に…」
「………」
加島は心当たりがあるかのように顔をしかめた
「もしかして…その飴をくれたの、5、6歳の男の子?」
「え?あ…はい、それぐらいだった気がします」
「…やっぱりね。」
加島はため息をつくと、腕を組み困ったように語り出した
「山崎さん家のたけるくんだよ。彼の家はね、父子家庭なんだ。父親はアダルト製品とかそーゆーのを作っていてね。試作品で貰ったものとか、たけるくんが面白がって勝手に取っちゃうんだよ」
「……そ、そうなんですか…」
どんな親だよ。見舞いの時にそんなもの持ってくるとか…。いや、多分カバンの中に入ってるのを勝手に取るんだろうけど

「お父さんも忙しいみたいで、昼休みの間を縫ってはたけるくんに会いに来てるんだよ。」
「………」
ああ、だから荷物を置く暇がないってか…。だからって…普通持ってくんなよな

「…たけるくんの悪戯には全く困るよ」
「……あの、ところで今回の悪戯はどんな仕掛けだったんでしょうか」
「………気付いてないの」
「…?」
加島は頬を少し赤らめ視線を逸らした
「…媚薬だよ、ビヤク。 飴にでも含ませてたんだろうね」
「……び、びやく…?」
「……藤崎わからないだろうけど、すごくイイ顔してたんだからね」
「や、やめてくださいよっ。自分はそういうの興味ないですから」
「俺だって興味なかったよー。藤崎抱くまでは」
「抱くとか言わないでくださいっ」
「ほんとだよ」

加島の真剣な顔が近づく
「俺、藤崎のこと好きになった」
「…!」
ほんと、この人は顔だけはいいんだから
「……すみません、俺男に興味ないんで」
「俺とは付き合えない?」
「…はい」
「そ。じゃあ、これからは良き友と言うことで」
…友、ではないだろう
一応上司な訳だし。
「でも、藤崎に隙があったら俺はまた藤崎を抱くからね」
「……っ…頭おかしいんじゃねえの…っ」
「それ! 口の悪い藤崎も好きだよ」
「…っ…」



ほんと、この人といたら疲れる。








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