一話  




「じゃあ、行ってきます!」

朝起きて、朝ごはんを食べて、出かける支度して、俺 有島のあ はある場所に向かう
それは俺と同い年の学生が通う学校とやらではなく、古びた病院だ
んまあ、ちっこいから"医院"なんだけど、俺は何となくしっくりとくる"病院"と呼んでいる

何故俺は高校に行かないのか、それは昔から続く苛めが原因だった

小さい頃から可愛いものが大好きで、小学校の頃は女装をして学校に行っていた
もちろん親には「やめなさい」と言われていたが幼い自分は耳を全く貸さなかった
その所為で虐められ、深く傷を負った
自分の好きな格好をして何がいけないのかと、昔は不思議でわからなかった

その頃から休み癖がつき、義務教育で通った中学でも、小学校から同じやつが俺の女装癖を言いふらした

その頃にはちゃんと指定された男子用の制服を着ていたが、身に付けるものはまだまだ可愛らしく女の子が持っていそうなものばかりだった

中学になって、仲間が増えたのか、その仲間と一緒に、小学校からのイジメっ子に毎日のように暴行された
学校に俺の居場所はなく、心に付いた傷は深くなるばかりで、俺はとうとう引きこもりになった。

中学もテストの日以外はいかなかった
本当はテストの日も行きたくはなかったが、母親がその日だけでもと念押ししたからである
元々頭の作りはいい方なのか、テストでは中々の高得点を取っていた
それが生徒にも先生にも嫌だったのか、生徒はおろか、先生すら俺の相手をしなくなった

高校も行かないと言ったのだが、父が「高校を出ているだけでも違う」のだと、将来のことを気にして、無理矢理入れさせられた
親父はいいところの坊っちゃんでコネで学校に入れた。
でも俺は何度も言うように学校になんていく気はなかった。
入学式の前の日もずっと、引きこもっていたのだ

入学式当日。
今日もまた同じようにパソコンを弄る日々が続くのだろうと思っていたら
部屋のドアがノックされ、母親の声が聞こえた

どうやら入学式には一緒にいけないので、母の弟に付き合ってもらうことになったらしい。
「行かないよ」と言っても聞くような親じゃない。
仕方なく、用意された制服へと裾を通した。

リビングへと向かうと、母の弟 藤崎のえる がそこにいた
彼は、昔からこの家によく遊びに来ていて、俺はよく懐いていた

そしていつからか、俺はのえるに恋をするようになった

彼も俺が好きだと言うことは知っている
だが「男に興味はないし、お前と付き合うつもりはない」とはっきりと断られた
それでも俺は諦められなくて、押しに弱いのえるの傍にいて、愛を送り続けた

今も尚それは変わらない
変わったと言えば、漸くキスを許された

もちろん、のえるは男に興味がなく俺を好きにはならない
半ば諦めで俺とキスをしてくれるようになった、といってもいつも俺からだが。

のえる自身もキスは好きなようで最近は拒まない
まだ舌を入れたことはないけれど、きっと入れたりなんかしたら拳が飛んでくるに違いない。

のえるが隣町で病院をしていることを知ってから俺は学校など行かず、毎日病院へと通った
親は何度も学校に通えと言ったが、俺は首を横に振り続けた

親は諦めたようで、家で引きこもるよりは、のえるの所にいた方がいいと、最近では放置気味だ
母さんに至っては、時々のえるに差し入れと、フルーツを持たしてくれたりする

まあ、なんだかんだで俺は今も毎日病院に通っている。


「のえる!きたよ!」
渡された合鍵を使い、病院の扉を開く
入ってすぐのまっすぐな廊下に俺の声が響く
窓から外の日差しが入り、電気を付けなくても十分明るい廊下を進む。

のえるはきっと、奥で寝ているんだろう
いつものことだ
朝が弱い彼は、無理に起きようとして二階の自宅から下りてくるが、病室のベッドに新しいシーツを変えてる途中で、寝てしまう

この病院内で一番日当たりが良く、冬でも暖かいこの部屋では、睡魔に弱い人間には酷な部屋である

「のえる?」
病室を覗くと、やはりベッドの上で眠りについているのえるを見つけた
近寄り、「起きて」と肩を揺すると、猫が鳴いてるような愛らしい呻き声が聞こえた

「……」
俺は用意した、通販で買ったナース服を取り出す。
そして素早く着替えると、のえるの耳元で小さく囁いた

「…せんせ…?起きないと……知りませんよ?」

ギシッと音をたて、ベッドへと上る
のえるの上に跨がり、顔をゆっくりと近付ける


のえる綺麗な顔してるな……


「おい」
突然、のえるの瞳が開き吃驚した俺は目を見開いた
「お前、なにしてんだ…。どけ」
「せ、先生が起きないからいけないんですよ!」
プンプンと可愛く怒ってみせた
のえるは心底嫌そうな顔をして、ベッドから下りた

「つか、なんだその格好」
「ナース服です!可愛いでしょ?」
「キモい」
「…ひでえ!!」
「当たり前だろ。男が着てて可愛いなんて思わない」
「思うもん!」

のえるは後ろ髪を掻き欠伸をしながら、部屋から出ていった
その後をついていく

「ねえ、のえる」
「…ん?」
「好きだよ」
「………」

ずっと、昔から好きだった
俺の好きが変わったのはいつからか知らないけれど、好きだったのは確か

「男に興味はない」
「知ってる」
「………」
「でも、好きなんだ。 ねえ、のえる」
「……?」

「キスして?」


いつか、のえるが振り向いてくれるまで諦めない

誰になんと言われようと俺はこの想いを消しはしない


絶対に




優しいのえるの傍にいて


これからも変わらない日々が続いていくんだと思ってた





そうアイツが来るまでは…








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