16 君を苦しめていたのは、僕か。


なまえが刺された時、知らない筈のいつかの光景が重なった。


__ だから、どうか生きていて。
私が愛した救世主。__


その言葉を聞いた時、今まで何度も彼女と重なった誰かが、ぐっと近付いて来た気がした。
もう少しで、分かる気がした。
もう少しで、俺の中の足りない何かが満たされる気がした。
それでも、目の前の彼女を失うかもしれない恐怖に俺は、見知らぬ誰かを追いかける事を止めた。
その時の俺の指先が、これでもかってくらいに冷たかった事だけは覚えている。

なまえが病院で治療を受けている間、考えた。
誰かを重ねているのは、なまえだけではない。
俺だって、知らない誰かをなまえに重ねている。
苦しいのは、お互い様だった。

なまえの治療は無事に済んだが、彼女の意識は何日も戻らないままだった。



それから数日、夢を見た。

でもこれは、夢であって夢ではない。
俺が忘れていた、いつかの俺の記憶だ。
一人ぼっちの魔王とお節介な救世主。
記憶のない俺が何度も愛した魔王サマ。
なまえの言う通り、俺たちはずっと昔からお互いを知っていた。
忘れていたのは、俺だけだ。
何度も繰り返して、その度に忘れて。
俺は『最初から』を繰り返した。
なまえは全て憶えているのだろうし、きっと財前だって。

最初は夢かとも思ったが、あれが俺の記憶だとするなら、合点がいく事ばかりだ。
そう思うと、受け入れる事は難しくなかった。
彼女と関わった事で俺は死に、俺の所為で彼女は死んだ。
きっとなまえは、それを否定するだろうが、俺の死が彼女の所為なら、彼女の死は俺の所為だ。



今なら、分かる。
何故彼女が、俺を遠ざけたのか。
何故彼女が、俺を庇ったのか。

彼女はいつだって、俺を守ろうとしてくれていた。
彼女は確かに、俺を愛してくれていたんだ。


君が目を覚ましたら、話したい事が沢山ある。
やっと思い出した昔話とか、あの時の君の気持ちとか、今の俺の想いとか。
本当に沢山あるんだ。
今度は俺が君を守るから。

だからどうか、はやくめをさまして。