09 少年の決意は、変わらぬまま。


「あんたも懲りんな」



そう言って声をかけてきたのは、よく見知った顔だった。
財前光。
私が愛する彼と、同じくらいよく知る顔。
私とこの少年の関係は、少しばかり複雑ではあるが、同時に明快なものでもある。
私にとって、少年は親友。
少年にとって、私は敵。
たったそれだけ。



「あはは。お前も相変わらずみたいだね」
「余計なお世話や」



よかった。
今回も大丈夫なようだ。
この子は、私を覚えているし、完全に心を許したわけでもない。
何度も繰り返しているうちに、仕方のない事と諦めたのか。
はたまた、繰り返しても記憶が引き継がれる者が私しかいないからなのか。
それを知る由は、私にはないけれど、この子は私にも優しくなった。
それでもこの子には、私を敵だと思い続けてもらわなければ。
そんなこの子が、私は好きだ。



「……きっとまた同じやで」
「うん、分かってる」



本当に、優しい子。
私の心配なんて要らないのに。
彼の代わりに私が傷付く事なんて、全く構わなくていいのに。

分かってる。
きっと私はまた、守れない。
それでも求めてしまうんだ。
彼との平穏で幸せな日々を。



「この間、名前で呼ばれたんだ。彼に」



それは、私が半ば催促したようなものではあったけれど、とても心地良かった。
あの時と同じ声、あの時と同じ顔があの時と同じ名前を呼ぶ。
違うのは、彼がそれを意図していないこと。
彼が全て忘れていることだ。



「何度も何度も、付き合わせて悪いね」
「それこそ今更やろ」



私もこの子も、彼の為に変わらないことを望んだ。
けれど私は、怖くて仕方が無いんだ。
目の前のこの少年が、私を切り捨てられなくなる事が。
私たちには、全てを犠牲にしてでも守らなければならないものがあるというのに。
月日を重ねる毎に優しくなっていくこの少年は、来るべき選択の時に、正しい答えを選べるのだろうか。



「ただ、忘れんといて下さい」



もともと愛想のいい顔ではないけれど、より一層真剣な顔をして光は言う。
あの頃と変わらない。



「あんたと部長。どっちかを選ばなあかん時が来たら、」



いつか来る選択の時。
終わらせる事を望んで待ち侘びる一方で、選びたくないと思ってしまう自分がいる。
でも結局、私の中で答えは決まっていて。
その答えは、きっとお前も同じだと信じている。



「俺は迷わず部長を選ぶ」



嗚呼、よかった。
お前が変わらないでいてくれて。
変わらず、私がお前の敵であって。

それでいい。
それでいいのだ。
もしまた私が彼を傷付けそうになったら、その時は、___。