暑いと思うから、暑い。
そんな事を昔、おかんが言うとった。

ある時、おかんが言うならと、暑いと思う事を止めてみた。
無理やった。
結局、暑くて暑くて我慢できずに、駄々を捏ねて怒られて、余計に暑くなった。
あの時は、散々怒られた後、兄貴がアイス買うてくれたんやっけか。



「うへー。今日も暑いですなぁ、財前氏」

「……………何しに来たん」

「あー、暑い暑い。よう、こんな暑い所に居れるなぁ。教室の方が涼しいで」

「…………他人の話を聞け。ほんで、暑いなら帰れ」

「財前くんってば、朝は居ったのに、急に消えるんやもんなぁ。そら、探しにも来ますわ。暑い中、探しに来たなまえちゃんを褒めたって!」



こいつも暇やな。
俺の事なんかほっといて、教室で寝とったらええのに。
一応、授業中やで。
もうすぐ終わるけど。

みょうじは、特に何かを言うでもなく、俺の隣に座った。
……いや、どっこいしょって言うたわ。
こいつ、ホンマに女か。
それとも、俺を男やと思ってへんのか。



「あ、忘れる所やった。はい、財前くん」

「………………」



隣に座るよく分からん生物に呆れていると、俺の目の前にい物体が現れた。
あまりに目の前過ぎて、よく分からん。
視界が真っや。
アホやろ、こいつ。
いや絶対、アホや!



「…………おい」

「ん?要らんの?」

「近すぎるわ、アホ!!」



目の前のを奪い取り、みょうじの頭を叩いてやった。
隣で文句言っとるけど、無視や無視。

みょうじが目の前に出した色は、ガリガリ君やった。
こいつ、学校抜け出したんか?
隣を見ると、みょうじの口にはガリガリ君。
さっきまで文句言っとったのに。
溶けると食べる気が失せる為、俺もい袋を破って、ガリガリ君を咥えた。



「コレな?オサムちゃんに貰ってん!」

「…………オサムちゃん……」

「財前くんの元気が無いって言うたら、ガリガリ君くれたんやで!」

「………………は?」

「朝から、眉間に皺寄ってたでー。嫌な事でもあったんやろ」



そう言って、眉間に皺を寄せてみせるみょうじ。
こんな顔しとった!とか言っとるけど、絶対してへん。
やっぱりアホや、こいつ。
アイスを咥えながら、眉間に皺を寄せるその姿は、



「………ぷっ。間抜け面」

「なんやて!?」



アイス片手に、はしゃぐみょうじ。
みょうじのアイスを持つ手は、溶け始めたアイスでベタベタや。
そういえば、あの時、兄貴が買うてくれたアイスも、ガリガリ君やった。
ソーダ味のガリガリ君を、ベタベタになりながら、一生懸命食べとった気がする。

あぁ、アホらしい。
今朝の兄貴との喧嘩も、国語のハゲの腹立つ喋り方も、クラスメートの下らない自慢話も、全てがアホらしく感じる。
何より、どうでもええ事にイライラしとった自分が、一番アホらしい。



「でも、あれやなぁ」

「?」

「財前くんが笑ってくれて、良かったわ」



ソーダ味のアイスを咥えて笑うみょうじの後ろには、呆れるくらい真っな夏の空が広がっていた。





俺の心をリセットするのは、今も昔も、いアイスと笑顔だったりする。

暑い日の射す、清々しい夏のサボタージュ。