7ばん、ちっそ



今、私の目の前には、見覚えのない男子生徒が居る。
目の前とは言っても、あまり免疫の無い私が赤面してしまう程の目の前ではない。
まぁ、赤面せぇへん理由は、他にもあるんやけど。
取り敢えず、肩を掴まれている為、逃走不可。
まぁ、そんな感じの距離。

で、この男子は、何がしたいのかというと、



「みょうじさんッ!!つ、つつつつきッ、付き合って、下さ、いッ!!」



出た。
ベタにも程があるわ。

朝、机の中に入っていた差出人不明の呼び出し状を見た瞬間、私が考えたのは、漫画のような2パターン。
いずれにせよ、私が望む平穏な日々は、奪われる訳だ。
告白とて、此方が好意を持った人間ならまだしも、名も知らぬ人間からのソレでは、正直『はい、分かりました』なんて言える筈もない。
そんな訳で、



「ごめんなさい」

「ーっ!で、でもっ、彼氏は、居らんのやろ!?」

「え?あー、まぁ、ね………。あ、だからと言って、君と付き合う事は、無いので」

「……っ」



彼には悪いが、正直に言おう。
帰りたい。
帰って韓ドラの続きが見たい。
帰ってポ○モンがしたい。
帰ってベッドにダイブしたい。
早よ帰りたいわ、切実に。



「まぁ、そういう事なので、帰ります」

「ちょっ、待って……っ!!」



彼も必死なのだろう。
声を発すると同時に私の腕を掴み、力一杯に引き寄せた。
予想外の力の強さに感心する一方で、このままでは望まぬ結果になるだろうと、他人事のように考えている自分を相変わらずだとも思う。
ホンマに漫画みたいやなぁ。

結局私の体は、途中で止まるどころか、巻き戻された。
………ん?
可笑しいな。
どういう事や?



「待つ訳無いやろ」

「な、なななななん、で……っ!?」

「あ」



狼狽えるユタカくん(なまえちゃん命名)の視線を追うと、そこには白石がいた。
どうやら白石が、巻き戻し現象の犯人らしい。
その証拠に私の腰には、包帯が巻かれた白石の左腕が。



「早よ、その手放しぃ」

「っ!!なんで、お前にそんな事……っ!!」

「俺のなまえや。お前には関係あらへん」



誰がアンタのや。

そう思った事は、今は言わないでおく。
そして、関係ないのが白石の方である事も。
白石が私を助けようとしてくれている事は明白で、早く切り上げたい私にとって、これはエネルギー消費量が最も少なくて済む方法なのだから。
何より、白石は真剣だ。
こういう時の白石には、余計な事は言わない方が良い。



「で、でもっ、みょうじさ、んは、彼氏、居らんって……っ!!」

「彼氏やなくても、俺のなまえや。他の奴に譲るつもりは毛頭無いわ」

「か、彼氏でもないのに、なんでっ」

「関係無い、言うてるやろ。早よ行け」

「白石」



このままでは、ユタカくん(仮)に殴り掛からん勢いの白石。
目がマジや。
流石にそれはやりすぎで、最早、単なる暴力でしかない。
そもそもユタカくん(仮)は、何かした訳でもなく、強いて言うなら、早く帰りたい私をしつこく引き止めたくらいや。
しかし、白石にはそんな事は関係無いらしい。
このままでは、ユタカくん(仮)の命が危ない。

そんな白石を止めるべく、奴に掛ける為の言葉を探す私。
まぁ、適当に。



「アンタは、ちょっと過保護過ぎるわ」

「………なまえ…」

「さて。告白を断る理由が欲しいんやったら、教えたろか?」



私がそう言うと、彼の喉が一つ、大きく波打った。
何も、緊張する事など無いというのに。
なにしろ、彼は既に振られているのだから。
理由を聞く事が怖いなら、聞かなければ良い。
それでも彼は、口を開かない。
沈黙は、肯定や。
構わず私は、喋り続ける。



「一つ。よく知りもせん相手と付き合う程、私はフラフラしてへん。二つ。タイミングが悪い。三つ。しつこい。四つ。付き合うとか面倒臭い。五つ。割と今が楽しい。六つ。他に好きな人が居ったらええのにー」

「……っ」

「………」

「あぁ、それともう一つ」



いつの間にか、名前も知らない彼と一緒になって、私の言葉を待つ白石。
その様子は、少し緊張しているように見えた。
そんな光景がとても滑稽で、思わず吹き出してしまいそうになったが、辛うじて堪える私。
そして、彼らが待つ言葉の先を。



「キミよりは、白石の方が好きなんや」



七 つ 目 の 理 由



「なまえ…っ!!いま、今、すすすす好きって……っ!?」

「ん?ああ、顔の話やで」