13ばん、あるみにうむ



なまえに告白について相談した日から一週間。
未だになまえへの告白の方法を考えあぐねている俺は、悶々とした日々を過ごしていた。
どんな告白にするべきか。
それは、どれだけ考えたって そういった方面に疎い俺一人の頭でベストな答えが出るはずもなく、ただ時間だけが過ぎていくのだった。

今日も今日とて 部活後の部室でジャージから制服に着替えながら 完璧な告白について考えていると、突然 思い出したと言うように財前から声を掛けられた。
その声音は、いつもどおり 大して感情の込もっていないそれで、如何にも財前らしい。
声につられて振り返れば、他の連中はとっくに帰ったのか、部室には俺と財前の二人きりだった。



「部長、なまえさんに何か言いました?」
「ん?何かって?」
「恋愛関係で、何か話したんとちゃいます?」



財前は、なまえと仲が良い。
それはもう、俺が妬いてしまうくらいに。
委員会が同じだけだ と二人は口を揃えて言うが、二人の性格は些か近いところがある。
その所為か、どう見ても財前はなまえに懐いているし、なまえはなまえで 財前のことを弟のように可愛がっている。
羨ましい限りだ。

それにしても、恋愛関係で何か、なぁ。



「んー……あ。告白の方法、相談したわ!」
「…は?」
「いやー、自分が告白する方なんて初めてやからなぁ。やり方 分からへんし、なまえって 他の女子よりちょっとサバサバしたとこあるやろ?余計、分からんようになってなぁ。直接 聞いてみよ思って」



勿論、なまえ本人が 告白の相手だということは伏せて。

溜め息混じりに、それが原因か。と呟く財前。
何が何だかさっぱり分からないが、この後 続く話に良い予感はしない。
なまえに何かあったのだろうか。
思えばこの一週間、告白のことで頭がいっぱいだった所為で、碌になまえと話せていない。
今の俺には、分からない事だった。



「なまえさんが、俺にしとけば良かったって」
「?何を?」
「好きな人」
「……え?」



まるで、理解できなかった。
目の前の後輩が言っている言葉の意味が。
思考することを放棄したがる脳を無理矢理 働かせ、ほんの数秒の遣り取りを反芻する。
考えたくない。
しかし、考えねば。
考えないことが この先の俺を更に追い詰めるなんて事は、考えずとも分かっていたから。



「財前」
「…なんすか」
「……それ、いつの話や」
「多分、部長がなまえさんに相談した後っすわ」



カラカラに乾いた喉から、なんとか絞り出した声は、思いの外 いつもどおりのそれだった。

財前が言うように、なまえの様子が おかしくなったのを、俺が彼女と話した後からだと仮定するならば。
それならば、俺の話を聞いたなまえには、何か思うところがあったという事だろうか。
財前を好きになればよかったと、彼女に言わせてしまうような何かが。

期待しそうになる気持ちを抑えて、俺にとって都合の良すぎる想像を排除するのに奮闘する。
過度の期待は、するべきではない。



「なまえさん、大分悩んどるみたいでしたよ」





「好きな相手 泣かせるくらいなら、告白なんて適当でええと 俺は思いますけどね」



財前はそういうが、果たして 俺に望みはあるのだろうか。
もし、無かったとして、望みのない告白をした俺は、その後 どうなってしまうのか。
否、そんな事は関係ない、か。
俺が一番守りたいものは、この恋心ではなく、なまえの笑顔だった筈だ。
時折 彼女が向けてくれる、至極 幸せそうな笑顔が、俺の心を満たしてくれるから。
だから、俺は 彼女の傍にいる資格が欲しかったのだ。

嗚呼、今すぐなまえに会って伝えなければ。



とんでいくから



君の涙が溢れるその前に。