【4】HOUND3


雑賀先生による 常守朱へのマンツーマン講義は、日が暮れるまで続いた。
そろそろお暇させてもらおうかという頃、なまえさんに夕飯を食べていくよう言われた。
俺たちが雑賀先生と話している間に 作ってくれていたらしい。
半ば強引に連れられた食卓には、既に四人分の食事が並べられていた。



「雑賀先生となまえさんって、どういう関係なんですか?」



折角 用意してもらったのだからと、夕飯をご馳走になる俺と常守。
食事半ばに彼女の口から飛び出したのは、恐らく 今まで彼女の中にわだかまっていただろう疑問だった。



「あ、いえ、その、…苗字が違うし、その、年齢もだいぶ離れているようなので……ご結婚されてる訳ではないのかなーなんて…」



まあ、そうなるだろうな。
なまえさんの年齢は、俺とたいして変わらないし、雑賀先生は もうすぐ五十路。
二人の年齢は二十近く離れている。
そんな二人を一見して、誰が夫婦と思うだろうか。
しかし よく見れば、彼らの間にある空気は、確かに夫婦のそれと似ているのだ。
彼女が、不思議に思うのも無理はない。



「あ、いや、年齢は関係ないですよね!……すみません…」
「ふふふっ。いいのよ、気にしないで。そうね…先生と私は、」
「私の恩師の娘だ」
「そういえば、そうでしたね」
「そ、そうだったんですか!私、てっきり…」
「もう、先生!私が面白いこと言う前に被せるのは、よしてください!」



彼女はてっきり なんだと思ったのだろうか。
なまえさんが 雑賀先生の愛人だとでも思ったのだろうか。

少し彼女と話せば分かることだが、なまえさんには、心理学関係の知識は ほとんどない。
雑賀先生との会話などで吸収した程度の知識はあれど、専門的なことは からっきしだった。
何故 雑賀先生は、彼女を傍に置いているのか。
何故 彼女は、雑賀先生の傍にいるのか。
随分前に一度だけ、雑賀先生に訊ねたことがあった。
その時 彼は、なんと答えたのだったか。



「……彼女の父親が亡くなってからだ。こうして二人で暮らすようになったのは」
「それが今では、家政婦です」
「…………。」
「…なまえさん、面白くないです」
「もう!狡噛くんったら、相変わらずね!」
「……こんな山奥で暮らしていると、人との接触が少なくてな。はしゃいでるんだ。許してやってくれ」
「はあ…」



そう言った雑賀先生は、少し楽しそうな顔をしていた。