【3】前触れは音もなく


今日は、お客さんが二人来ると聞いている。
そのうちの一人は、狡噛慎也くん。
以前、雑賀先生が公安局で特別講義をされた時からの付き合いである狡噛くんが、女の子を連れて久々に遊びに来るという。
先生は、遊びじゃないなんて言っていたけれど、彼を含めた『人間』と話す時の先生はとても楽しそうだし、私には捜査やら心理学やらは正直 関係ないので、やはり私からしてみれば『遊びに来る』で間違いない。
あの狡噛くんが女の子と一緒に来る。
非常にからかいたくなる気持ちはあるものの、十中八九 男女の関係ではないだろうと予想できる以上、それは安易には出来ない。
私をお傍に置いてくださっている雑賀先生の品位に関わる。

朝食を終え、お客さんが来るのは分かっていたから、掃除は真っ先に終わらせる。
雑賀先生がリビングで寛いでいようと関係ない。
急がないとお客さんが来てしまうのだから。
大方の掃除を終え、洗濯に取り掛かろうかという頃、インターホンが一度だけ鳴った。



「いらっしゃい、狡噛くん」
「お久しぶりです、なまえさん」
「そちらのお嬢さんが、聞いている子ね?」
「あ、つ、常守朱ですっ!」
「初めまして、みょうじなまえです」



狡噛くんが連れてきたのは、とても可愛らしい女の子だった。