【2】洗濯日和


気づけばいつの間にか、暦は 既に12月だった。
あと三十日もしないうちに、2112年が終わる。

キッチンからでも外の景色を眺められる位置に備えられた、幾つもの掃き出し窓からは、眩しい程の日の光が入り込む。
肌を刺すような冬の空気は、程よい緊張感とほんの少しの寂寥を孕んでいる。
それがまるで 雑賀先生のようで、物悲しさの混じった安心感を与えてくれる。
私は、冬の空気が好きだった。



「あ。おはようございます、雑賀先生」
「……おはよう」
「ふふっ。もう少しで朝食の支度も終わりますから、先に座っていてください」



静かに開かれた扉から顔を出したのは、この家の主。
彼に声を掛ければ とても眠そうな返事が返ってきた。
ゆっくりと食卓へ向かう雑賀先生の背中を眺めつつ、朝食の支度を急ぐ。

完成した朝食を持って食卓へ向かえば、未だ半覚醒状態だった先生が、椅子に座って静かに目を閉じていた。



「昨夜は、遅かったんですか?まだ眠そうですけど」
「…ああ。少し、集中しすぎてな」
「…今日のご予定は?」
「特にない。一日、ゆっくりするさ」



二人揃って、いただきます。ごちそうさま。
先生と私の朝食は、いつだって 同時に始まって、同時に終わった。
そうしようと言って決まったことではないけれど、先生は私が支度を終えるのも、食べ終えるのも、急かさず静かに待っていてくれたので、立場が逆になった時も、私は先生を待っていた。
これから先、いつまで続くのかは分からないけれど、叶うなら 最後まで続いてくれればいい。



「先生」
「ん」
「コーヒー、淹れますね」
「ああ、頼む」



雑賀先生に食後のコーヒーをお出しするのは、私の役目。
私が好きでやっていること。
マグカップに注いだコーヒーの香りが、部屋の中を漂っていく。



「なまえ」
「はい」
「今日は、いい天気だな」
「ええ、本当に」



決して暖かくはないけれど、とても天気のいい、冬の朝のことだった。