※(勝手に)愛について語ります。
※色も含め、苦手な方は、回れ右して下さい。



「もし、私達が他の誰かに引き裂かれてしまったら、白石はどうするの?」

「なんや、ドラマにでも感化されたん?」

「まぁ、ね」



せやなぁ。
そう言って答えを探し始める白石。
実際には、ドラマではなく小説なのだけれど、そんな事は、今はどうでもいい。
問題は、そこではないのだから。

その物語の中で、彼女は、自分達の事を子供だと言った。
彼らには、周囲に仇なすだけの力が無かったから。
相手を守れると、信じて疑わなかったから。
そんな大層な力など、持ち合わせていないというのに。

けれど、彼も彼女も、きっと大人だったと思う。
そうでないとしても、本当の【愛】に気付いていた筈だ。
気付いていたからこそ、彼女の涙は愛の為だったし、彼の後悔は愛そのものだった。
彼らは、まさしく【愛】だった。



「でもね?他人に引き裂かれるって事は、他人に愛を否定されるって事で、そこで諦めてしまえば、二人の愛はその程度って事だと思うのよ」



それでも彼らは、愛し合った。
引き裂かれた後も彼らは、やはり愛し合ったのだ。
お互いの為ではなく、愛の為に。
愛で泣いて。
愛に悔いて。
愛を、愛して。
二人の愛は、完成された愛で、いつの間にか彼らが【愛】となった。



「その二人は、引き裂かれて諦めたん?」

「直後は、諦めなかったわ。でも、どうかしら。途中で彼が殺されてしまったから」

「ほな、彼女は?」

「死んだわ」



彼女は死んだ。
彼の死後、彼への愛を語るでもなく、ただ静かに命を絶ったのだ。
彼の死から数年後に。

彼に対する彼女の気持ちは、結局分からないまま。
その数年間に彼女が何を考え、何を想っていたのかなんて、私の察する所ではない。
彼女は何故、死んだのか。
何故、彼の死から数年後だったのか。
何故、最期まで愛を語らなかったのか。
そんな事は、分からない。
私に分かった事は、一つだけ。
彼女の最期の意志は、【愛】ではなく、死だったという事。
これは、【愛】の物語である筈なのに。



「その彼女も、最期まで彼を愛しとったんやろなぁ」

「……どうして?」

「彼は、彼女を愛したまま死んだんやろ?なら、彼女に対する彼の最後の気持ちは【愛】や」



確かに、そうかもしれない。
彼は、最期まで彼女を愛していた。
愛していたが故に、殺されてしまったのだ。
彼女ではなく、他の女を愛せていたならば、彼は死なずに済んだかもしれない。
それを彼女も分かっていたから、別れを告げたというのに。



「だからと言って、どうして、彼女も愛していたと思うの?」

「愛に報いるには、それと同等以上の愛しかあらへん。二人の【愛】が本物なら、そのバランスは完璧な筈や」



愛のバランス。
それは、とても難しくて、愛の形すら歪にしてしまうもの。

確かに二人の【愛】は、本物だった。
けれど、彼は死んでしまったのだ。
その時点で、バランスは崩れ、【愛】は完璧ではなくなった筈。
彼の愛は、彼女に届かなくなり、彼女の愛もまた、消えてしまうのが普通ではないのか。
なのに何故、目の前のこの男は、彼女の愛が続いていたと考えるのだろう。



「愛は消えへんよ。人が死んでも、最後の【愛】は残り続けるんや」



未練や憎しみが、そこに在り続けるように。

彼は、そう言った。
人は、生きているから、変わっていく。
生きていれば、体は老い、心は移りゆくだろう。
死はまさしく、それを止める唯一の方法だ。
死すれば、心はそのまま残る、と。
彼女もそう思ったから、完璧な【愛】で在り続ける為、彼と同じように愛を残したのかもしれない。

私は、彼女のように生きられるだろうか。
白石が、完璧な【愛】を求めるなら、私もそう在りたいと思うけれど、今の私には、それだけの覚悟も自信もなくて。
【愛】の為に、彼から離れるなんて事は、出来ないと思う。



「俺が彼女なら、」



そこで一度、言葉を切る白石。

彼女は、【愛】の為に言葉を紡ぎ、【愛】の為に捨てた。



「なまえを他人に傷付けさせへん為に、なまえが俺を忘れへんように、愛したまま別れるんやろなぁ」



彼女は、【愛】に生きた。
愛する為に生かされた彼女は、【愛】を守るために死んだんだ。



「俺が彼なら、」



彼は、【愛】に生きる彼女を愛した。



「絶対になまえと離れへんよ。例え、殺されると分かっとっても」



彼は、【愛】に殺された。
愛する事で死んだ彼は、【愛】を生かす事を生としたんだ。

それなら私は、偽物ではないこの気持ちを【愛】と呼び、この人に全てを捧げてしまおうか。
そう考えながら、白石に目をやると、とても幸せそうに笑っていた。
けれどその目が、私を通して別のモノを見ている気がしたのは、気の所為だったのだろうか。



「でも俺は、なまえを愛していられるなら、それで充分や」



嗚呼。
この人が見ているモノも、やっぱり【愛】なのか。







やっぱりアレは、【愛】の物語だったんだ。