最近、白石がおかしい。
恐らく、恋や。
いや、確実に恋や!
この浪速のスピードスターこと、忍足謙也の目に狂いはないで!!

なんでそう思うんかって?
そら、白石が授業中ぼーっとしとったり、宿題を忘れるようになったりすれば、嫌でも気付くやろ。
しっかりしぃや、白石!
お蔭で、俺も宿題忘れやわ。
いつもっちゅー訳やないけどな!

まぁ、そんな調子の白石は、今この瞬間もぼーっとしとる。
箸で、玉子焼き掴んだままや。
俺が食ったろか、その玉子。
あぁ、そうそう。
白石の相手の子やけどな?
俺は、もう気付いとる。
あんだけあからさまやったら、気づかん方が可笑しいわ。



「なぁ、白石。お前、告白せぇへんの?」

「は、はあ!?な、何の話や、謙也!」



え、何?
何、この反応?
バレてへんとでも思っとったん?
あんだけあからさまやのに?
コイツ、賢いんか阿呆なんか、よう分からんな。



「白石、みょうじさんの事、好きやろ。めっちゃ分かり易いわ」

「………」



おいコラ。
なんや、その顔。
憐れみとか、蔑みとか、悲しみとか、羞恥とか、色んな負の感情が篭った目で俺を見んな!!
変態!痴漢!破廉恥!!
俺に指摘されるなんて、とか思っとるんやろ!
謙也さんは、お見通しっちゅー話や。
お前なんか、みょうじさんに振られてしまえ!



「ホンマ、死んでくれへんかな。謙也くん」

「だが断る!」

「死ね。謙也死ね。ホンマ死ね。デリカシーの欠片もないお前は、最早宇宙の恥や。汚物以下や」

「お、おぉ……宇宙規模か」



うん。ちょっと言い過ぎたわ。
白石は、本気なんやもんな。
冗談でも、振られてしまえとかは、不味かった。

しかし、アレや。
俺がそんなことを考えている間にも、白石は再び異世界に旅立ってしまっている。
目の前で手を振ってやっても、反応は皆無。
ホンマに大丈夫か、コイツ。
恋は、盲目とか言うけど、盲目すぎるやろ。
あぁ。俺は白石みたいには、なりたくない。
突然、うふふ。とか言って、頬を染めながら笑い出す白石に、さぶいぼが。
アカン。コイツ、病気や。



「………白石。頼むから、はよ告白してくれ」

「はあ?なんで、謙也に急かされなアカンねん」

「頼む!俺の為、いや、延いては全校生徒の為やと思って!」

「……規模デカいな」



せや。
あの白石が、実は好きな女の子の妄想をしてうふふ。なんて笑ってると噂が広まれば、全校生徒だけやない。
先生達まで、さぶいぼや!!
これでは、部活にまで影響が出る。
全員さぶいぼ状態で部活とか、どんな苦行や!



「まぁ、告白はせんにしても、ちょっとはアタックした方がええんとちゃう?」

「んー……まぁ、なぁ……」



なんやろ。
なんか、あるんか?
俺の台詞にあまり乗り気ではない白石は、更に、うーん。と唸っている。
もしかして、もう既に告白したとか?
いや、それはないな。
そんな事したら、結果はどうであれ、白石はもっと気色悪いことになっとる筈や。
だとすると、白石が渋る理由が分からへん。
みょうじさんはええ子やから、白石になんかしたとも考えられへんし。
一体、何があるんや?



「白石くん、白石くん」

「え!?な、何かな、みょうじさんっ」



おぉ、噂をすれば、やで。
俺らと同じクラスのみょうじさん。
白石が好きな女の子。
物静かで優しくて、ちょっと天然な彼女は、密かに男子に人気がある。
特別、可愛い訳やない。
ん?あぁ、可愛いと思うで。程度の可愛さや。
可愛さ控えめ、っちゅーヤツやな!
せやから、男子の人気もそれなり。
そんなみょうじさんに、白石は骨抜きなんや。



「光くんが呼んでるよ」

「……ぇ?」



言いながら教室の入口を指差すみょうじさんにつられて、そっちに目を向けると、俺達のよく知る後輩が一人立っとった。
みょうじさんは相変わらずニコニコしとるけど、白石は放心状態や。

財前光。
まさか、みょうじさんの口から聞くとは思わんかった名前。
俺も白石もよく知っとる名前。
白石。お前の考えとる事は分かるで。
せやから、ここはこの謙也さんが、魂の抜けた白石の代わりに真相を究明したるで!



「みょうじさん、みょうじさん」

「忍足くん、どうかした?」

「財前と知り合いなん?」



きょとんとするみょうじさんに、少し直接的過ぎたか。とも思ったが、そうでもないらしい。
財前の事を『光くん』なんて呼ぶんやから、知り合いであるのは、間違いない。
それも、ある程度の仲の筈。
その仲を勘ぐって、白石が放心状態になるんも、仕方ない。

みょうじさんは、あぁ。と小さく呟いたかと思うと、にっこりと笑って一言。



「光くんとは、ご近所さんなの」



へ、へぇ。
まぁ、薄々、そんな気はしとったし、全部合点はいったけど。
ご近所さんって。
これは、どうなんや。
白石の許容範囲なんか?
気になるのは、さっきから白石が俯きながら、小刻みに揺れとるっちゅー事や。
揺れとるっちゅーか、震えとる。
その震えは、どっちや。
セーフなんか?
それとも、アウトなんか?



「っみょうじさん!」

「なぁに?」

「あ、あの……つ、付き合って下さい!」



…………え?
え、コイツなんて言ったん?
付き合ってって…。
……このタイミングで?
ちょ、本格的にコイツ、阿呆やろ。
さっきまでの震えは何やったんや!?
そして、周りを見ろ、白石!
ここは、教室や!
そして、入口には財前がおるんや!!
みんな見とるで!
それに、みょうじさんやって、困って



「いいよ」



ほら、やっぱり。
………ん?
今、なんて?

みょうじさんの方に振り返ると、やっぱりニコニコと笑っていた。
ん?どういう事かな?
白石は、みょうじさんに告白して、みょうじさんはそれに笑顔で『いいよ』って。
……なんでやろ、嫌な予感しかせぇへん。



「今日も本屋さん?」

「あ、うん」



ほら来たー。
ですよねー。
みょうじさんは、天然やもんなー。
って、アホな!!
それでええんか、白石!と思って、白石を見れば、嬉々とした様子。
しかも、頬を染めるというオプション付き。
あ、ええんや。

一部始終を見ていた生徒達は、買い物の話だったのか。と各々の話題に戻っていく。
ちゃうで、みんな。
多分、白石は告白のつもりやった。
それは、教室の入口に居った財前にも分かっていたようで、片手で口を抑えてはいるものの、もう片方の手では腹を抱え、前屈みになりながら震えている。
大爆笑やな、アイツ。

取り敢えずは、白石が満足なら、それでよし。という事にしておこう。





後から聞いた話によると、みょうじさんに告白を流されるのは、あれで八回目だったらしい。
白石があの時、渋った理由も分かった。
けれど、あの遣り取りを八回も繰り返しているあの二人の頭は、どうかしとる。
この様子だと当分は、あの遣り取りが続きそうや。



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「部長。なまえさん、手強いでしょ」

「財前。俺は明日から、お前の家に居候する」

「はあ?」

「みょうじさんとご近所さんになる為に!」

「………」

「財前。取り敢えず一日、泊めたれ」

「………はい」