「何しとん」
あ、れ?
何してんだろ、私。
どうして、こうなった?
なんで、財前くんが目の前に居るんだろう。
というより、見下ろされて、る?
「えぇーっ!?なんでですか、財前氏ーっ!」
「それは、こっちの台詞や」
「え、だって……え、なんで?あ、いや、そういう事ではなく、え、なんで?だって、え、えぇーっ!!」
「うっさい」
どういう事や。
なんで、財前くんが目の前に居るん!?
さっきまで財前くんは、3m程前方に居た筈。
そんな彼が目の前に居るとか……っ!
………はっ!
私の尾行術が見破られた!?
そんなアホな!
師匠直伝のストーk………尾行術が見破られたなんて!!
師匠になんて言えば、ええんや!?
師匠!
愛弟子のなまえちゃんは、目標に尾行を見破られるという大失態を犯してしまいました!!
こんな弟子は、破門でしょうか!?
打ち首でしょうかッ!?
「ツッコミ所多過ぎて、ワケが分からん。取り敢えず、その口閉じぃ」
「え!?もしかして、私喋ってたん?」
「思い切りな。まぁ、ええわ。んで、最初に戻って、『何しとん』」
「え、最初っ?えーっと、えーっと、……『えぇーっ!?なんでですか、財z』」
「お前は戻んな。なんでこんな不毛な会話、二回もせなアカンねん」
「えぇー。注文多いわ、財前くん」
まぁ、そんな所もええんやけど。
え?私ですか?
私は、ただの財前くんのファンです。
毎日遠くから財前くんを見つめて、喜びに浸っている、ただのファンです。
毎朝校門前から、財前くんの帰宅までを陰から見守っています。
ストーカーじゃないかって?
いいえ、ファンです。
そういえば、昨日の財前くんのお弁当のデザートは、ぜんざいでした。
ぜんざいと言えば、財前くんの大好物です。
そんなぜんざいを嬉しそうに食べる財前くんは、とても素敵でした。
素敵過ぎて、危うく私の死因が、鼻血による失血死になるところでした。
そんな私は、今日も財前くんの帰宅を見届けようと尾行していたのです。
しかしながら、この状況とは、なんとも情けないばかりです。
「という訳で、財前くんの帰宅を見守っていた訳であります!」
「どういう訳や」
「あ、今度は口閉じてたんや」
「………まぁ、みょうじがしそうな事は、大体分かるわ。どうせ、いつものストーカーやろ」
「財前くんが私の事を分かってくれてるなんて……ッ!でも、尾行と言って!!」
「………今日は、もう帰れ。もう暗なってきたしな」
「え!財前くんが私の心配を!?」
「ちゃう。この後なんかあったら、俺の気分が悪いやろ」
何だかんだ言って、財前くんは私の心配をしてくれてるに違いない!
いつもはツンツンしてるけど、本当はとても優しい財前くんを私は知っている。
しかし、こんな所で退くなまえちゃんでは、ないんやで!
「財前くんの帰宅を見届けな、家には帰られへんよ!」
「アホか。俺は普通に帰りたいんや。それをみょうじにつけられとったら、『普通に』は帰られへんやろ」
「………そう、ですね」
「………分かったら、帰れ」
先程より少し強めに言われた財前くんの言葉に、私は黙って頷くしかなかった。
極力財前くんの負担にならないように、気を付けているつもりだった。
後をつけるという行為自体が負担である気もするけど、そこは衝動を抑えられなかったという事で、お許し頂きたい。
それでも、財前くんに直接迷惑がかからないように気を付けていたのに。
もう、財前くんの帰宅を見届ける事は、出来ないだろう。
それは、今日に限らず。
さっきまでの勢いが、アホみたいや。
「………明日からは、『普通に』隣、歩いて帰るで」
ショックで俯いたままの私に、財前くんの一言が。
一度沈んだ私の脳では、その言葉を上手く理解する事は、出来なかった。
私の中を廻るその言葉は、ゆっくりと私の脳を侵していく。
ほんの少しだけ頭が回り始めた私が顔を上げれば、私に背を向けて歩き出す財前くんが居た。
その耳が少しだけ赤い気がするのは、もうすぐ沈みきってしまう夕陽の所為と言う事にしておいてあげようと思う。
「………今日のところは、帰ります、か……あ、」
財前くんの後を追っていただけで、今まで自分が何処に居るのかなんて気にしていなかった私。
ぐるりと周りを見渡せば、其処は見知った場所で、やっぱり彼は優しい人だと思った。
君の家まで
(あれ?でもなんで財前くん、私の家知っとったんやろ?まさか、財前くんも……なーんてな!)
(あ、家知っとった事、怪しまれてへんやろか。………まぁ、ええか)
((あぁ、明日が楽しみや!))