きんおのぎんおの!


「はっ……」

天馬が目を覚ますとそこは土の上だった。草まじりの小道のど真ん中、天馬はうつ伏せに倒れていた。ここはどこだろうと。腕を付き頬についた土をはらう。頭の中でぐるぐると考えてもここまで来た記憶がないけれどこの道にはまだ先があるらしく、日差しが一本の筋となって進めと示しているようだった。それに従い立ち上がって両側に木々が生い茂る道を進んでいく。すると少し歩いてすぐ、何やら開けた場所に出た。


「湖……?」

大きな湖が真ん中にありその周りは相変わらずの森。水面が日を浴びてきらきらと輝いている。もっともっと近くへと湖のほとりまで歩いていく。


「綺麗だけど、本当にここはどこなんだろう?」

恐る恐る天馬は湖を覗き込む。水面に映された自身の情けない顔と目が合った。

じっと水面を見つめる。と突然ぶくぶくぶくとたくさんの泡が出る音が湖の真ん中辺りからきこえ、はっと顔を上げた。大きな泡がいくつも出て、それから水面がまばゆいほどの光に包まれる。天馬は思わず目を瞑り顔を逸らしていた。

ぴかりと光った光が落ち着く。ゆったりと瞼を上げた。


「えっ」

神童さん、と天馬が目を見開いた先には湖の真ん中、肩から足首まで白い布を纏った神童が水面の上に佇んでいた。いきなりのことに足から力が抜けていく感覚がした。


「神童さんじゃない、泉の精だ」

「ちょっと待って下さい!」

「天馬! やっとここに辿り着いたな!」

にこにこと機嫌よく高らかにそう続ける神童。天馬はまだ目の前の状況を飲み込めずぽかりと口を開けている。


「神童さん、ここはどこなんですか……」

「それより天馬!」

天馬の切実な質問を遮って声を張り上げる。


「俺はお前にきかなきゃいけない」

「はあ……」

「お前が落としたのは……」

どちらの剣城でしょうか。神童が両腕を広げると同時に、水中を裂き二つの影が水面へと出てくる。


「えっ、剣城までそういう感じなの?!」

「落としたのはどっちの剣城でしょうか、ということだ」

「いや俺、剣城をこんな所に落としたことないんだけどなあ」

「いいから! 選んでくれ」

神童にそう言われ、渋々水面に上がってきた二つの影、二人の剣城を交互に見比べてみる。一人はいつもの雷門サッカー部のユニフォームを、もう一人はアースイレブンのジャージを着ていた。剣城が二人いるのはたしかにおかしい所だけれどそれ以外にひっかかる所はない。選べと言われても困ってしまう。天馬は首を傾げた。


「天馬、俺が本物だぞ」

頭の上にはてながたくさん浮かんでいる天馬に痺れを切らしたのか、雷門ユニフォームの剣城が声を上げた。


「えっそうなの。本物っていうと……こっちは偽物?」

「そうだ」

そして天馬の指差したアースイレブンのジャージの剣城に向かってそう言い放つ。


「この剣城こそこれまで天馬が一緒にサッカーをしてきた剣城だよ!」

「信助?!」

よく目を凝らすとその剣城の肩に、まるでピクシーのように小さな信助がちょこんと座りそんなことを言っていた。


「信助もなんでそうなってるのか分からないけど、本物って言われたら選ぶしかないよね……」

「ちょっと待てよ」

心を決めかけていた天馬のもとに反対側から声がかけられる。


「次は……こっちの剣城?」

天馬が視線を移動させた所にはアースイレブンのジャージを着た剣城が足を組んで浮かんでいる。


「たしかに俺は偽物だ。だけどお前だって気付かなかっただろう?」

「あっあの時の!」

「そうだ……あと俺は大人だからな、そっちの剣城よりいろんなことを教えてやれる」

雷門ユニフォームの剣城に対しふん、と鼻を鳴らすこちらの剣城の肩の上には信助と同じくなぜだか小さくなったオズロックが座っている。


「オズロックもこの小ささなら全然怖くないね!」

「こっちの剣城は私が選んだ、ハイレベルな宇宙傭兵だからな! こっちがいいに決まってる!」

どうやら信助とオズロックはそれぞれ剣城の応援役らしい。四人が一通り話し終わったあと、静かにきいていた神童が再び口を開く。


「……ということだ、天馬」

「なんとなくは分かりましたけど」

「どっちがあなたの落とした剣城か、好きな方を選べ」

「そう言われても……」

選べと言われても無理だとしか言えない。たしかに本物とか偽物とかはあるかもしれないけれど、どちらも天馬と時を共にした「剣城」だった。どちらがいなくていいなど、天馬には考えられないことだった。それにたまらず頭を抱える。


「選べって言われても……剣城は剣城だし……」

いっそ二人ともなんて言ったらどうなるか分からないし、そもそもなんでこんなことになってるか分からないし


「剣城は選べないよ……」



******



天馬、と自身を呼ぶ声とゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚。その声になに、と掠れた声でこたえゆっくりと目を開ける。


「なに控え室で居眠りしてるんだ?」

「えっ剣城?! 剣城だよね!」

「ん? ああそうだ」

「良かったー! 俺間違ってなかった!」

「んんん?!」

起こしてやったらいきなり泣きそうな嬉しそうな顔で抱きついてきた天馬に、剣城は大人しく身体を受け止め思考も停止させるしかなかった。




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あの童話ちっくなそうでないような感じのおばかな天偽京です。もっとみんなわちゃわちゃするといい!偽ちゃんかわいい!!


14.04.11


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