緩やかな赤の縛り


剣城、と天馬の唇から零れる声は熱を孕み甘ったるい。もう夕日が傾いているというのにカーテンを閉め電気もつけていない部屋の中、その唇だけが真っ赤に浮かび上がり存在を主張していた。


「いいでしょ?」

目に毒な赤が再び開かれる。言葉の響き自体は無邪気で幼いけれどこの状況下でこの言葉の示す意味に、剣城はふうと息をつき言葉を続けた。両肩は前からがっしりと掴まれ、自分はベッドに座り。逃げ場などどこにもないのだった。


「いきなりだな……」

宇宙から帰ってきて初めて訪れた木枯らし荘。ここには何回か来たことはあるけれど、秋さんの手料理を食べるのは初めてだった。大勢の人とわいわい食事をするとギャラクシーノーツ号の食堂を思い出すな、なんて天馬との会話を楽しんだりもした。
そのあと二人で天馬の部屋に入ってすぐ、いつも通りベッドに腰掛けると余裕がないといった顔の天馬にこんなことをされこんなことを言われている。相変わらず真っ直ぐで行動がそのまま出てしまう天馬に剣城は笑いを零した。


「だってここで我慢しろなんてそれはひどすぎるよ!」

「我慢しろなんて一言も言ってないだろう」

「じゃあいいんだね」

ぽんと肩を押されゆったりとベッドに倒れていく。天馬の手が優しく身体に触れてくるのを確認してから剣城はやんわりと目を瞑った。

たしかについこの間までの宇宙への旅、宇宙での戦いは激しいもので二人の時間などとてもじゃないけれど持つ余裕がなかった。幼子をあやすように天馬の頭をぽんぽんと撫でる。この少し癖のある柔らかな髪に触れるのは久しぶりだった。


「寂しかったんだ」

普段チームの皆、周りの人々を励ます言葉を紡く唇からぽつりと掠れた声で零される感情。剣城はそれに目は閉じたままそうか、と声だけでこたえた。

ゆっくりと剣城の首元に顔を埋める天馬の唇が首筋へと触れる。薄暗い部屋の中、暴かれた剣城の白い肌とそこに這う天馬の赤い唇だけがぽうっと浮かび上がっていた。上から下に首筋を丁寧に口元で辿りながら、空いた手でTシャツを捲り腹をやわやわと撫でる。それが少しくすぐったくて剣城は思わず天馬の手を掴み、目を開け抗議の声を漏らしていた。


「天馬、」

そして名前を呼ぶ。その声に首元の鎖骨辺りを行ったり来たりしていた唇が止まり天馬自身も身体を起こした。上に乗り上げる天馬を自然と剣城は見上げる形になる。


「なに?」

「俺も寂しかったんだ」

「うん」

「それに、お前に名前を呼ばれるのがすごい嬉しいんだ」

剣城、と。天馬の唇から紡がれるその言葉の響きには様々な種類があった。同じサッカー部の頼れるメンバーの一人を呼ぶ声。競い合える良きライバルを呼ぶ声。そして今、見上げた天馬の唇から再び零されるその響きは恋人へのそれであり、一際火傷してしまいそうな熱を孕みじわじわと身体に染み込んでいく甘さを帯びていた。

その響きを生み出す天馬の唇が好きだった。その剣城という呼びかけでどれだけ救われてきたか。また天馬の髪に触れたくなって剣城は上へと手を伸ばした。


「お前に名前を呼ばれる度、自分を好きになっていくんだ」

雷門で出会ってからこれまで変わらず呼ばれてきた響き。それが孕む意味合いは変化してはきたけれど、天馬の言葉の強さは変わらない。その言葉で、天馬の赤い唇で自身の全てを絡め取り縛ってしまってほしかった。


「俺も、剣城の名前を呼ぶ度びっくりするくらい、さらに剣城を好きになっていくよ」

これ以上ないって思ってもね。にこりと天馬は笑う。その笑顔が剣城はとても好きだった。


「キスして」

「今日は甘えたい日なの?」

「……そうだ」

再び降ってくる唇の赤が眩しすぎて目を閉じた。窓の外では同じく真っ赤な夕日が淑やかに一日を終わらせていく所だった。




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いつも素敵な天京をかかれているドリさんのお誕生日に書かせて頂いたものです。こんなものでもお祝いとなれば!いつもよりちょっぴりえっちぃ雰囲気を目指したつもり……。難しいね!

14.04.02


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