気持ちの行方


乱暴に開けられたドアから入ってきた人物はいつものようにボロボロで、俺もまたいつものように盛大にため息をついて彼を椅子に座らせた。


「……またまたひどくやられたもんだねぇ…」

そしてそう冗談めかしながら頬にできた真新しい傷にガーゼを当てる。肌にかけられた消毒液に少し痛がる仕草を見せたが、もう慣れっこなのかすぐに大人しくなった。


「…べつにこれくらい、どうってことない。」

「剣城くん、いつもそう言うけど…」

「俺が大丈夫って言ってんだから大丈夫。」

拗ねたような口調で強がる剣城くん。でも大丈夫だなんて、そんなの嘘。毎回俺のとこに逃げてくるくせに。そう思いながらも、続ける。


「天馬くんがこんなひどいことするとはね…」

なんでだろうね。天馬くんは剣城くんが好きなのに。どうして傷つけることしかできないんだろう。


「…天馬は悪くない。」

そう俯いて声を震わせながら呟かれる名前に無性に腹が立った。いっそ天馬くんをめちゃくちゃに言ってくれればいいのに。庇う理由なんてこれっぽっちもないと思う。白くて綺麗な剣城くんの頬に付けられた大きなガーゼにはもう血が滲んでいて、目を逸らしたくなる。


「でも実際、そんな傷つけられて……剣城くんはいいの?」

「…いい。大丈夫だから。」

そう言ってまた唇を噛み締める。立ち上がった俺の服の裾を掴む手が小刻みに震えていて。この手を掴んだら、この人はどんな反応をするんだろうか。


「……そっか、」

けれど俺はずっとその手を掴めずにいる。きっと剣城くんは天馬くんには内緒で俺の所に来ている。そしてそれが知れてまた殴られる。だから俺も共犯なんだ。剣城くんが傷付けられる理由を作っている自分を見て見ないふりをしている。


「いつもありがとうな、狩屋。」

そういたいけな笑顔で彼が赤い唇を開く。見ているだけで辛いくらいに、綺麗だった。


「そんなに改まらないでよー。…いいってことよ。」

ああ俺はそんなにいい人じゃないんだよ。自分のために剣城くんをここに留めているような卑怯なやつなんだ。


「……なあ、」

ふと掴む力が強まり俺のシャツにしわがよる。


「また……来てもいいか?」

「……うん、いつでもいいよ。」

また、というのはまた一つ彼の身体に傷がつくということ。そしてまた俺が手当てをするということ。本当はもう来なくなるくらい二人の仲が安定してくれればいいのにと思わなきゃだめなのに。けれどもその縋るような目に俺はにやけそうになる口元を抑えながら答えることしかできない。


「…いつでも、逃げてきていいんだよ。」

ただ自分がこの立場に甘んじているだけだと知りながら。一体いつからこんなに狂ってしまったのだろう。


(もう純愛なんて見失ってしまったよ)



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片想いにたぎって書いたやつ第一弾。少し歪んだ天京←マサキです。不器用だから天馬の気持ちは拳に、マサキの気持ちはガーゼにのせられて、純粋だった気持ちは一体どこに行くんだろうっていう恐怖感を感じてればいいと思います。


12.03.26

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