一度吸い込んで吐き出す息は白くなり、透き通った空気にまた混ざり消えていく。それを何度も繰り返しながら、ようやく目的地の小高い丘の上に辿り着いた。
「ほら見て! 星がこんなに。」
そう言われて空を見上げる。空き地での練習に付き合ってもらったお礼にと松風に案内された場所は周りに視界を遮るものがなく、辺り一面に幾万の星が瞬いていてプラネタリウムのようだった。
「ほんとだ……こんなよく見える場所があったのか…」
「寝っ転がって見るのが一番綺麗なんだよ。」
そう言って芝生の上に寝転ぶ松風。その隣に腰を下ろしそのまま同じように横になる。頬を撫でる背丈の短い草が心地良かった。
「あれ……オリオン座か?」
真ん中の三つの星が印象的な星座。丁度見えやすい位置にきていて、いつもより近く感じる。
「本当だ…冬の星座の代表だね。」
隣の松風も白い息を吐きながらそれをじっと見つめていた。本当は何万光年も遠くにあって決して手は届かないのに、今なら真上に手を伸ばせば簡単に星を掴めそうな気がする。そしてそのまま限りのない漆黒の夜空に吸い込まれてしまいそう。
「……あのさ、」
おもむろに松風が口を開く。発せられた言葉は俺に向けられているのに空から視線を外さずに独り言のように続ける。
「星にも寿命があるんだって。」
「…………。」
「……だからこの空にはもう輝いていない星たちも大勢いる。」
それは少し悲しいことだと思うんだ、とふと盗み見た松風の横顔はどことなく頼りなくて、神童に代わってキャプテンとしてみんなをまとめ上げようといういつもの強さはなかった。
松風だって、不安なんだろう。いきなりキャプテンというチームの中の大きな存在を任されて。いろいろ思うところもあると思う。こんなやつでも悩むのかと思う反面考え出したらきっとどこまでも沈んでいってしまうやつだから。慰めやアドバイスの代わりに、隣に寝ているやつの手をぎゅっと軽く握った。少し驚いたように一瞬こちらを見たがすぐにその視線は上へと戻っていく。
「……べつに、輝きを失ったからって星じゃなくなるわけじゃないだろ?」
「……?」
「ならいいじゃないか。光ってなくても、空にある限りきっと誰か見つけてくれる。」
「……剣城って意外とロマンチストなんだね…」
「……なっ…なんだよ、悪いかよ……」
「ううん。ただ……」
そう言って握り返される手。空いているもう片方の手は空の上の星たちを懸命に指で繋いでいる。
「俺は剣城に見つけてもらえて良かったなって。」
「ばか。お前はこれから輝くんだ。まだ終わりじゃないだろキャプテン。」
「ふふっ、ありがとう。……あっ、サッカーボール座だよ!」
「そんなのあるのか?」
「これとこの星を繋いで……俺が作った!」
「……なんだそれ…」
いつしか真上にあったオリオン座も傾いてしまって、空もその暗さを増していた。けれど空の濃さに比例するように星もまたきらきらと輝きを放っていた。できればずっと、その光を近くで見つめていたい。その思いを再びぎゅっと握り返した手の平にこめた。
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少し弱気な天馬くんいいですよね!天体観測胸熱。5000hitありがとうございました!
12.03.07